Lust
□第1章*雨
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それぞれがポイントに着き、周囲の状況を確認する。H地区はホテル街が集まる場所。ポイントC地点は廃ビルに囲まれ、周りから孤立していた。
「てかさー、監視カメラが張り巡らされたこの帝都で、僕たちから逃げようなんて無理なのに。」
イヤホンからは瑞希の気の抜けた声が聞こえてくる。続いて桃華の叱咤する声。合わせるように紗良の笑い声が耳に響く。
「お前らいい加減、気を引き締めろよ。」
緊張感の欠片もない自分の仲間に誓は半ば呆れながらも、その声に優しさがある。
3人はイヤホンの向こう側で苦笑いを浮かべている自分たちのリーダーを思い浮かべる。それにもまた笑みを零せば、誓のしっかりとした声が聞こえる。
「任務開始まで10秒だ。4,3,2,1、任務を開始する。」
了解。と、全員の声が被る。
「ターゲットはH-4地区を東に移動中。あと10秒後にポイントCに到着だよ。」
桃華はモニターに映る映像から大体の時間を予測し伝える。現場の3人は指示を受け、カウントを始める。全員のカウントがゼロになった瞬間、3人はそれぞれの待機地点からターゲットの前に現れる。
「ははっ、零か…。来ると思ってたぜ。」
現われた空華にさして驚く様子もなく、むしろ馬鹿にするように言ってのける。そんなターゲットに誓は不敵な笑みを零しながら腰に帯刀した刀を一本抜く。
「39条も、いい加減見直した方がいいな。」
「司法の人間ってさ、結構簡単に騙せるんだな。」
自分の罪を棚に上げ、嘲笑う男。
憲法第39条は一度無罪になった行為では再度責任を問われない。刑法第39条は責任能力のない者は不処罰にするといった内容の法律。
零はこの法律によって無罪判決を受けた者を裁くことが任務。
自分で犯した罪の責任の一切放棄し、のうのうと生活しようとする奴らが、そんな犯人を多く生み出すこの国の法律が、誓は嫌いでならなかった。
「刀、ねぇ…。間合いにさえ入らなければ、怖くなんてねぇんだよ。そっちの女は丸腰、そっちのは拳銃。」
全員の武器を確認し終わると、西嶋は銃を構えゆっくりと後ろに下がる。それに合わせ瑞希も銃を構える。通常、片手で扱うのは難しいとされるデザートイーグルを右腕一分で構える。
「ねぇ、いい加減にしたら。」
「なんのことだ?」