Lust

□第2章*バディ
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「待て。こっちに来い。」

 坂牧は約の手首を掴みあげ、道路に面した細い路地へと引っ張って行く。大通りから外れた道のためか人通りは無いに等しい。

「約、お前は何考えてるんだ!」

 コンクリートで出来た冷たい壁に約の肩を押しつける。坂牧に抑え込まれ身動きがとれないと諦めた約は、大人しく背中を壁に預けると目の前にある顔を見つめ返す。

「約……。自分が何をやってるのか分かってるのか?」
「あぁ、分かってるさ。」
「分かってない!」

 眉間に深い皺を刻み、肩に置いたままの手に力を込める。約はその痛みに若干反応する。

「零については警察のトップシークレットだ。俺たちみたいな一刑事が手を出しちゃいけないんだ。」

 警察庁刑事課第零係特殊警察部隊――通称・零。警察庁の管理下にあるが、彼等の正体については警察の重要機密事項だ。学園内に進入しようものなら問答無用で懲戒免職にされ、警察の組織内から永久的に追放される。

「情報なんて盗んだら殺されかねないんだぞ!」
「んなこと分かってんだよ!」

 壁に背を預けたまま左手で拳を握り、思い切りコンクリートを殴り付けた。鈍い音が辺りに反響する。約の勢いに坂牧が目を見開く。

「分かってんだよ…、そんなことは。」

 漆黒の瞳を伏せ俯く約の顔に、綺麗な銀色の髪がかかる。目を見張るほど美しい光景だが今はそんなことを言っている場合ではない。ポツリ、ポツリと話始める約の声に耳を傾ける。

「おかしいとは思わないのか?後ろめたい事でもなければ、ここまで徹底することもないだろう。」
「何の事だ?」
「俺はずっと気になっていた。零が一体、何を隠しているのか。」
「……。」
「結果。あいつらが最低の人種の集まりだと分かった。」
「どういう…。」
「実際に任務に出される生徒たちは何も知らされていない。自分たちがどんな奴らの下に就いているのか。」
「約…。お前は、何を知ったんだ?」

 憎しみとも呼べるようなどす黒い感情が渦巻く約の瞳。少なくとも、坂牧が知っている約はこんな表情をしなかった。

「悪いが、これ以上は教えられない。」
「何でだよ!俺たち親友だろ?」
「だからこそだ。これ以上話せばお前まで危険に曝す。」

 これ以上、大切なものを失いたくない。と、微かだが耳に届く。強く、強く拳を握る約に、これ以上問い詰めても無駄だと悟る。
坂牧は最後の悪あがきだとでも言うように、先刻の約と同じように硬い壁を殴り付けた。擦りむけた皮膚から滲む血を舌で舐めとると、痺れるような痛みが走る。

「ってぇな。ホント、痛ぇなー。」

 適当にハンカチを巻き付けて傷を隠すように縛る。利き手で殴ったのが間違いだったと、多少の後悔を抱きつつ路地から出て行く。約は一言、悪い。とだけ呟くと、その背中を追う。
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