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□キッチンパニック
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 しかし、そんなのは勝手なイメージな訳で想像と現実はそう簡単に一致しない。

「ええと、まずは…ニンジンを一口大に切ればいいんですのね。」

 レシピ集に目をやりながら右手には包丁。その状態のまま包丁を勢いよく振り下ろす。ニンジンは切れた、確かに。

「あら、嫌ですわ。このまな板、不良品じゃありませんの?」
「紗良、どーしたの?すごい音したけど………え?」

 真っ二つに割れた…否、切れたまな板に男子6人の顔色が一気に悪くなる。

「言っただろ?」
「料理が下手とかそういう問題ではなさそうだね。」

 安海が呆れたように呟く。葵と瑞希もこのまま紗良に任せてはおけないと厨房に入って行く。

「さ、紗良嬢…?こんな時まで女性の手を煩わせるのも悪いですから、俺たちで作りますよ。」
「そーそ。僕たちに任せてダイジョブだからさ。ほら、桃華も。」

 とりあえずは安全第一と女子2人を厨房から追い出そうとする。

「まぁ要するに、危険だからお前らに任せ…」
『馬鹿!!』

 誓の言葉に双子の声が被る。

「皆さんがそうおっしゃるなら…ねぇ?」
「うん。そだね。」

入れ替わるように優弥と秀弥を除いた4人が厨房へ入る。

『俺ら料理なんて出来ねーからさ。』

 自分の能力を把握しているようで双子は紗良と桃華を挟むようにして厨房をのぞき見る。それに文句を言う人間は一人もおらず、むしろ邪魔がいないだけかなりマシなようだ。
 それぞれが自分の役割を果たそうと、シンクやら冷蔵庫やらに向かう中、誓は紗良がまな板ごと真っ二つにしたニンジンを凝視していた。

「何ニンジンと見つめ合っているんですか。早く下ごしらえしてしまって下さい。」
「いや…刀、使っちゃダメなのか?」
「駄目に決まってるでしょう!」

 空華のリーダーには常識というものが存在しないのかと若干の疑念を抱きながら、仕方無く包丁を使い始めた誓を確認する。
 普段から刀を使っているだけあって刃物の扱いには慣れているようだ。そんな誓に少し安心しながら、ふと後ろを振り向けば今度は自分の班のリーダーがやらかしてくれている。

「安海、貴方も何をやっているんですか?」

 計量カップを片手に右往左往している金髪の美少年というのは何とも奇妙な図。何をそんなに必死になっているのか訳がわからない。

「いや、平行な場所をね。」

 テーブルやらシンクやらに計量カップを置いては首を傾げる。何がそんなに気に食わないのか。

「まったく…貴方も邪魔です!」

 葵の怒鳴り声が食堂に響いた30分後、なんとか作り終えた昼食を食べ、それぞれの寮に戻っていった。

                             END

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