Short

□誰でも苦手なことがある
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「や、やっと出来ましたわ。」

 紗良は自室のキッチンを使い、桃華と一緒にお菓子作りに勤しんでいた。シンクには使い終わった調理器具が並んでいる。そのいくつかが微妙に歪んでいるのは見なかったことにしておこう。

「うん。キレイに焼けてる。あとは、デコレーションだけだね。」

 桃華の協力が大きな要因となり、とりあえず今日中に作り終えることが出来た。しかも、お菓子といつこともあり包丁を使わなくて済む。

「そうですわね。桃華のおかけで何とかできましたわ。」

「いいって。それに、お菓子作りならいつでも付き合うよぉ。」

 ニコニコと笑う桃華に感謝しながら、最後のデコレーションに移る。

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 一晩明けて2月14日。バレンタインデー当日。いつもは授業に任務にとピリピリとした雰囲気の学園に、今日は甘い匂いが漂う。

「今年は1個ぐらい欲しいよな。」
「あー、こういう時は彼女持ちがマジで羨ましい。」
「ねぇ、誰に渡すの?」
「秘密に決まってるでしょ。」

 男子は貰えるもらえない、女の子たちは誰に渡すか。そんな話題で教室は持ちきりだった。普通の生徒たちにとっては楽しみなイベントなのだが誓は嫌いで仕方が無い。

「あの、高野くん。これ、もらってくれない?」
「あたしのも。」

朝からこの調子でもう何人目だろうか。机の上に徐々にチョコレートが増えていく。隣の瑞希を見れば、同じようにチョコレートの山。甘いものが苦手な誓としては、地獄なのだ。
しかも、今日の隅からは紗良と桃華の射抜くような視線が突き刺さる。そんな視線に誓と瑞希は2人で溜め息を吐く。

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「やっと落ち着けるな。」
「だねー。2人の目が怖いのなんのって。」
 放課後になり、ようやく人の山が消えたが机の上はチョコレートが山のようにある。10分ほど前には安海と葵、優弥、秀弥が大量のチョコレートを持って帰った。今から自分達もあの状態になるのかと思うとうんざりする。

「さってと、早く持って帰りますかー。」
「仕方無いな。」

 何をしようとチョコレートの山は減るわけもない。まぁ、食べてしまえばいいのだが、今は遠慮したい。

「誓。」

 腹をくくり大量のチョコレートを持って帰ろうと立ち上がると、入り口から声がかかる。

「紗良、どうした?」
「少しお時間いただけません?」

 邪魔者は退散しますかー。と、隣にいた瑞希はいつの間にか教室を出る準備が整っている。

「しっかりやれよー。」

 すれ違い様にそんな言葉を残していく親友が恨めしい。

「どうした?」
「あ、あの!これ、受け取ってくれません?」

 差し出されたのは可愛らしくラッピングされたピンク色の箱。バレンタインらしくハート型をしている。

「上手く出来たかは分かりませんが、桃華に教えていただきながら作ったんですの。」

 紗良は俯きながら必死に説明する。心無しか声が震えている。

「良かった。」

 誓がボソりと呟けば、紗良は勢いよく顔を上げる。窓から差し込む夕日のせいなのか若干、赤く見えるのは気のせいと言うことにしておこう。

「お前から貰えないのかと思った。」
「そんなことありませんわ。誓こそ、皆さんから貰っていて私のなんて受け取ってくれないかと。」

 そんな筈がない。と優しく言えば緊張が解けたのか紗良の顔に笑みが浮かぶ。

「俺も、お前に渡さなきゃな。」

 誓は自分の学生カバンの中から箱を取り出す。

「紗良、誕生日おめでとう。」

2月14日バレンタインデー。まだまだ日が落ちるのは早い。暗くなり始めた教室に影は2つ。

ハッピーバレンタイン
産まれて来てくれてありがとう
ハッピーバースデー
誕生日 ありがとう

END
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