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□蛙の子は蛙
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 またも、職員専用のエレベーターに乗り込み、上の階に向かう。病院のちょうど真ん中のフロアだ。
 医局、看護部フロア。6階に内科系、7階に外科系が集まり、この2フロアで39ある診療科の医局と看護部が全て集結する。
 エレベーターから出るとすぐに、外科医局・看護部と書かれたプレートが天井から下がっている。自動ドアを抜けると何やら足音らしき音が聞こえてくる。

「みぃーずぅーきぃー!!」

 近づいて来る足音に混じり、瑞希を呼ぶ声が微かに聞こえてくる。廊下の隅に目を向けると、白衣をなびかせながら走るドクターの姿。
 医局の中を全力疾走する医者などあまり会いたくないのが本心だが、残念ながらそれは確実に瑞希を呼びながらこちらに向かって来ているようだ。

「みぃずっきぃ!」

 医者をしかっりと確認できたと思った瞬間、自分たちの先頭を歩いていた瑞希の姿が派手な音と共に消えた。

「瑞希、久しぶりだな!帰ってくるなら言ってくれればいいのに。」

 瑞希と同じ黒縁の眼鏡をかけた男性はダークブラウンの癖っ毛で優しい雰囲気を持ち合わせている。

「邪魔。重い。鬱陶しい。」
「なんだ、瑞希。恥ずかしがってるのか?まったく、相変わらず可愛いな。」

 目の前で繰り広げられる謎の状況と、瑞希に向かって可愛いなどとありえない言葉に、目と耳を疑う誓、紗良、桃華。

「違うから。退いてくれる?煩わしい。」
「仕方無いなぁ。退くよ。…ん?紗良ちゃん、久々だね。」

 今やっと存在に気が付いたように紗良たちを見る。ずれた眼鏡をかけ直す姿はどこか瑞希に似ているように思える。何故か、紗良のことを知っているらしい。

「お久しぶりですわ。」
「で?瑞希、こっちの子たちは?」
「空華の仲間だよ。左からリーダーの高野誓、諜報の美空桃華。紗良は知ってるよね。」
「へー。んじゃ、この子が今の学園トップな訳だ。」

 顎に手をやり、ぶしつけに見つめてくる見知らぬ男性に誓は顔を顰める。

「瑞希、誰だ?この人。」
「あぁ、ごめんね。これ、僕の兄貴。」
「兄貴じゃないでしょ?お兄ちゃんって呼びなさい。」

 居住まいを正し目の前に立つ男、瑞希の兄もう一度見てみる。
 癖っ毛ではあるがダークブラウンの髪、黒縁の眼鏡、スラッとした長身は確かに瑞希と似ている。

「紹介遅れたね。俺は田邦凉南。瑞希の兄です。」
「すずな、さん?」
「うん、そうだよ。名前は両親の趣味の塊だよ。」

 女の子みたいっしょ?と瑞希が笑うと、凉南がまた後ろから抱きつく。それこそデレデレとニヤけながら首に手を回している。

「えっと、貴方が瑞希の兄なのは分かりました。」
「でも、なんでそんなに抱き付いてるの?」
「んー、兄貴さ、極度のブラコンなんだよねー。暑苦しい。」

 凉南を引き剥がし、さほど身長差のない首根っこを掴みあげる。見方を変えればバカな大型犬とご主人さま。
 呆れ半分でその姿を見つめる紗良と桃華。その横で凉南を凝視する誓。

「誓、どうしたのぉ?」
「いや、どこかで聞いた名前だと思ったんだが気のせいだろう。」
「気のせいではありませんわ。凉南さんは5年前に空華のリーダーだった方ですわ。」
「おぉ、知ってたんだ?!紗良ちゃん。」

 目を輝かせながら見つめてくる凉南に若干引く紗良。
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