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□Sad
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「…はじめまして。」
「はじめまして。」
相手が深々と頭を下げるもんだから、こっちもそれに合わせる。
「燐様の使い魔の雪男です。」
「あぁ、…うん。」
使い魔っていう位だから、もっとでかいの想像してたんだけど。
「メフィスト、本気か?」
「私がいつ冗談を言いました?」
お前の存在自体が冗談だろ。
「燐様、僕ではご不満ですか?」
「いや、というか…なんつーか。」
「凄い優秀なんですけどねぇ。」
あぁそうですか。














「お前本当に俺の弟?」
「はい、間違いなく。」
「双子って聞いてたんだけど?」
「双子ですよ。」
「こんなに身長差がでるもんなのか?」
「燐様と僕とでは力の差がありますから。そもそも、青い炎を継いでいる貴方と比べるなんておかしいですよ。」
「そーいうもんなのか?」
「そういうものなんですよ。神父様からは何も聞いていないのですか?」
「親父?…なんも。」
「そうですか、あの方にも困ったものです。」
くすくすと楽しそうに笑う。眼鏡の奥で細められた翡翠色の瞳は知的に見える。俺の胸位の身長だけど、物腰の柔らかさのせいか大人っぽい。














朝食がまだだと言うので有り合わせで用意する。
「燐様は料理が得意なんですね。」
「お前何が食いたい?今度作ってやるよ。」
自分の得意分野だ。褒められて嬉しくない訳がない。
「使い魔ですので食べなくても大丈夫ですよ?」
「口に合わないか?」
「いいえ燐様、とても美味しいです。…魚が好きです。」
「任せとけ。」
猫の鳴き声が聞こえた。黒猫がこちらを見上げてる。
「どっから入ってきたんだ?」
「クロです。神父様の使い魔だったのですが…、あのような事がありましたからね。僕と一緒に燐様にお使いするようにと…クロは藤本神父様の元使い魔です。」
「こいつも魚好きかな?」
「さっきから、次の食事に魚をねだって鳴いているんですよ。」
雪男と同じ豚の生姜焼きを用意すると、旨そうに食べる。一人増えたんだ、住人が二人になったところで変わらないだろう。















親父が死んでから、昔からの知人だというメフィストに厄介になってる。卒業したら働くつもりだった俺に、正十字学園なんてエリート校とこの男子寮が用意された。悪魔として人間社会で生き抜くために必要な知識を身につけてこいという訳だ。初めて一人で暮らす事になった俺の住まいが、他に人のいない旧男子寮の二人部屋でおかしいとは思ってた。初めから雪男がくる予定でこの部屋を宛がわれたと気づくのに、そう時間はかからなかった。

















「こっから半分が雪男のスペースだからな。」
「はい。」
紹介された次の日には、雪男がこちらに引越してくるというので手伝う事にした。学校が始まるまで後2日あるので暇だった。
「それにしても随分荷物が多いんだな。」
「申し訳ありません。ほとんど対悪魔学の資料なんです。」
「よく分かんねぇけど、必要なもんなのか?」
「はい。少しでも燐様の力になれればと。」
「でも仲間を殺す勉強なんだろ?」
「それは燐様も同じです。貴方を守るには同族や人間、全てのものを敵にまわさなければならない。」
「…別にお前がわざわざやる事じゃないだろ。」
「神父様と約束をしたんです。双子の兄がいると教えられた時に。」
「見た事もない兄を?」
「はい。」
外はこんなに天気がよくって、入学式を控えた今は桜も満開で。なのに俺の弟とやらは変な宗教にはまっているようだ。しかも教祖が親父で俺が信仰対象らしい。親父、本気で何やってたんだ。













「お前本当に悪魔な訳?」
引越しの荷物も片付け終わりおやつのホットケーキを食べ終わったところだ。雪男は何も言わなくても食器をテーブルから下げる。悪魔ってこんなに行儀がいいものなのか?
「貴方と同じ悪魔ですよ。ほらね。」
カーディガンの下に隠していた尻尾を取り出してきた。
「おぉ、でも俺とちょっと違うな。犬っぽい感じ。」
「…貴方の狗ですからね。牙だって生えてますよ。」
「?」
「冗談です。そういう燐様は猫みたいですね。」
「そうかぁ?クロとお揃いだなぁ。」
足元にクロが喉を鳴らしながらくっついてくる。
「クロはとても喜んでますよ。羨ましいです。」
「何が?」
「僕もお揃いがいいです。」
とてつもなく恥ずかしかった。













夕飯は約束通り、刺身と焼き魚の両方用意した。誰かと一緒に食事するのが何日かぶりで楽しかった。

















風呂から揚がると雪男がタオルを持ってスタンバイしていた。
「何してんだ?」
「神父様から、貴方は風呂揚がりは髪が濡れたまま部屋の中を歩きまわると聞いていたので。僕が拭こうかと思ったんです。」
「あの糞親父…自分で拭くから大丈夫だよ。」
「いいえ、やりたいんです。」
見かけによらず意外と強情なところがあるんだな。困ることもないので好きにさせた。俺をベットに座らせると、前から優しく拭いてくる。
「楽しいのか?」
「とても。燐様は綺麗な黒髪ですね…瞳の色も深い海のようです。」
「そんなん言われたの初めてだ。」
雪男は嬉しそうに笑ってみせた。
















「燐様…もう寝てしまいましたか?」
小さな声に気がついていたけど、眠くて瞼が開かない。指が優しく触れてきた。
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