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□Wish
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兄さんが祓魔師の試験に受かるとは思ってもいなかった。あの頃は兄が楽観的な事に、いつもイライラしていた。塾生の友人に注意されても笑ってごまかす。それがある日突然、机にかじりついて教科書と格闘を始めたのだから驚いた。それはもう大騒ぎになったものだ。本気で心配した塾生達に毎日詰め寄られ、どうしたのか聞かれた。最初は喜んでいたが、そのうち僕も焦りだした。しゅらさんが病院に連れて行った程だ。健康過ぎる位だと追い返された。しばらくして兄さんは僕にだけそっと教えてくれた。
「お前は医者になるんだ。俺の事で心配かけらんないだろ。」
あの兄が弟のためなら、ここまで出来るのかと驚ろかされた。













騎士の資格を得た兄と任務を組まされることがほとんどだった。監視と任務が同時にこなせる為、僕としては助かったが兄さんは納得していなかった。小言を言われるからだ。















その日の任務は、古い家に現れた悪魔を祓って欲しいというものだった。実際に向かうと、こちらが手を出す必要のない程弱っていた。元々力も弱いのだろう、傷を治癒できていなかった。どうしたものか悩んでいると、兄さんが助けてやってくれと泣きついてきた。
「そんな必要もないし、そもそも依頼がある。」
「お願いだから雪男、助けてやってくれ。こいつ俺と一緒なんだ。」
「同じ悪魔だから助けろってこと?兄さんは人間だ。」
連れて帰ると言って聞かない兄と言い争いになった。結局は依頼人の家からいなくなってくれれば後はお任せしますの一言で、我が家の住人となった。
「ありがとうな、雪男。」
悪魔を抱えて泣きながら笑う兄さんに文句の一つも言えなかった。













ボロボロだった悪魔を無理矢理風呂にいれた。水を嫌がって暴れるものだから二人がかりだった。洗い終わるとクロにそっくりな姿をしていて驚いたものだ。真っ黒な猫又が羽を生やしていた。
「黒いから夜だなっ。」
兄さんは嬉しそうにしっぽを振ってみせた。


















「なんで奥村君とこばっか、猫又が集まるんやろ?」
猫好きの三輪君にそう言われる程、夜もクロも兄さんに懐いていた。一日中兄さんについて回る夜に対抗心を燃やしたクロまでべったりだった 。飽きもせず、毎日ついて来る夜に兄さんは色んな事を教えた。得意の料理から刀の使い方までだ。















しばらくして、夜が人の姿になったと大騒ぎになった。夜中、僕に内緒で兄さん指導のもと夜が人間の姿になる練習をしているのは知っていた。
「雪男っやばい!」
思わず愛銃を握った僕の腕を抑えられる。
「どうしたの?クロと夜は!?」
「それが…夜がイケメンだった!」















屋上へと着くと長身の男が立っていた。
「あぁ雪男か、助かった。燐が酷く興奮してしまって。」
彼の足元でクロがぴょんぴょん跳ねている。
「そりゃお前、こんなかっこよくなるとは思わねぇだろ!」
大喜びな兄さんに抱き着かれている。
「本当に夜なの?」
「やればなんとかなるもんだな。燐と雪男の…クロもだな、三人のお陰だ。」
確かに容姿は整っていた。真っ黒い髪に赤い瞳。僕らより2、3歳は年上に見える。
「少し…兄さんに似てるかな。」
「俺はここまでかっこよくねぇよ。」
「燐は俺の見本だからな。」
嬉しそうに目を細める仕種が兄にそっくりだった。あと数年もすれば兄さんもこんなふうになるのだろうか。本当によく似ていた。

















「雪男、どうしても助けたいやつがいるんだ。祓魔師になりたい。」
僕と兄さんの二人がかりで祓魔師の基礎をたたき込んでいった。すぐに騎士と医工騎士の資格を得ると任務もこなすようになった。














生活が落ちついてきた頃、夜は一週間程家を空けると言って出て行った。
「大丈夫だ、あいつは帰って来るよ。」
















夜は4日程で帰ってきた。僕は彼の目的を知っていたけどなんて声をかければいいのか分からなかった。
「夜、大事なもの守れたか?」
「兄さん…」
「あぁ。」
「そうか、夕飯用意してあるから食べてこい。」
「燐、本当にありがとう。」
兄さんは夜がいつ帰ってきてもいいように食事を用意していた。














夜が拾われてきてから3年もたっていた。彼と出会った冬はすぐそこまで来ていた。













「雪男は燐に渡すプレゼント考えたか?」
「僕は指輪」
「本当に仲がいいな。見せてもらっていいか?」
「かまわないよ。…どうぞ、そういう夜は何を渡すの?」
「今決まったところだ。」
「教えてよ。」
「内緒だ。」
雪男に小さな箱を返す。
「狡いなぁ。兄さんに聞かれても教えないでね。」
「分かってる。」












クリスマスの夜は3人とも任務から外してもらった。誕生日も同時に祝う予定だったからだ。夕方までに仕事を片付けて雪男と二人で帰宅すると、燐とクロが出迎えてくれた。
「俺からのプレゼントは毎年恒例、豪華な食事だ!」
クラッカーのテープを拾い集めながら部屋の中に入る。
「今年のケーキも随分大きいね、兄さん。」
「これじゃ、まるで結婚式だな。」
雪男が睨んでくる。
「夜、からかってるの?」
「そんな事はない。」
「ウエディングケーキ特集の番組やっててな。前から一度食ってみたかった。」
説明しながらすでに燐はケーキを切り分け始めた。一番上をクロに切り分ける。美味しそうに食べる様子を嬉しそうに見つめた。しばらくして顔を上げる。
「ほら、お前ら。ぼーっとしてないでプレゼント寄越せ。」
「はいはい…分かってるよ。兄さん手を出して。」
差し出された両手のうち、左手をひっくり返す。
「おい雪男…まさか」
「そのまさかなんだそうだ。年貢の納め時だぞ。」
「夜裏切ったな」
「俺はいつだって燐の幸せを願ってるよ。」
「笑うなぁ〜!」
「はい。…これで兄さんは僕のだね。」
「クロもなんて事言うんだっ」
兄さんは耳まで真っ赤だ。
「俺からも…燐にはネックレスチェーン。雪男にはライター。クロには酒だ。」
「さんきゅ」
「ありがとう。でもなんでライターなの?」
兄さんが僕のプレゼントを覗いてくる。
「俺達未成年だぜ?」
「クロが雪男に似合うからそれにしろって」
「親父とお揃いだなっ」
「複雑だなぁ。大切にするよ。」
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