二次小説

□願い×願い
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「はぁ…」

「あんたね、いいかげんその辛気臭い溜息やめなさいって」

「だって…はぁ…」

ジェイはずっとこの調子の剣の主を見て、
自身もこっそりと溜息を吐いた。

チャリアから帰って来てからというもの、リューイの溜息が絶えることはない。
と言っても、一人でいるかあるいはジェイの前でだけで、
周りに人がいるときはいつも通りに振舞っている。

「お姉さま…」

「はいはい、あんたのお姉さまは美人だからね〜」

「…ジェイは意地悪だ」

「前に不細工っつって怒ったのはどこのどなた様だったかな?」

「…そういうことを言ってるんじゃなくて…」

虚空を見上げ、また一つ溜息を吐いた。
そのリューイの頭を、ジェイは些か乱暴に撫でる。
いつもは形ばかりの抵抗を見せるが、今回はそれがなかった。

甘受しているのか、そんな余裕がないのか。

「可能性としては低いでしょ、歴代のお姫様のこと考えれば」

「うん…」

リューイが悩んでいることは、自慢の姉であるノーイのこと。
他国では魔力を忌み嫌い、ノーイのことを『魔女の姫君』などと言う輩が多い。
チャリアの貴族たちも例外ではなかった。
姉想いのリューイはそのことにとても心を痛めていたし、憤ってもいた。

しかし、ノーイが先の舞踏会に出席したところ、チャリアの貴公子たちはたちまちノーイの虜となった。
ノーイが賞賛されることはリューイにとってとても喜ばしいことだ。
けれどその反面、とても複雑な思いもある。

「お姉さまも、いつか他国に嫁ぐのかしら…」

ノーイはどんな相手でも夢中にさせてしまうほどの魅力の持ち主。
それは前々から分かっていたことだが、それがノーイの結婚にまで繋がるということを今まで全く考えていなかった。

そのことをチャリアでの一件で気付かされ、
ノーイがいつか自分の傍からいなくなってしまうかもしれないと思うと、
心穏やかにはいられなかった。

「だーから、オディロカナの姫は他国に嫁ぐことはあんまないんだろ?
それにそんな先のことぐじぐじ考えんなって」

「お姉さまはもう結婚されてもおかしくない年齢だよ」

「んじゃあ、おかしくない時期にそんな相手が出てきてないんだから平気でしょ」

ジェイはなんとかリューイを元気付けようと、明るく言う。
たしかにジェイの言う事はもっともだとリューイも思う。
しかしそれでもリューイの心は曇ったままだ。
瞳の色も僅かに灰がかっている。

「お姉さまの結婚相手が…」

「だから考えんなって」

「ジェイならいいのに」

「…………は?」
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