二次小説

□心の疼き
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オディロカナの王子、リュ―イ・ディジアヌ・ランは、腕を組み、眉間に皺を刻みながら城の廊下を歩いていた。
カツカツと響く大きな足音がとても不機嫌そうに感じさせる。事実、彼は今とても不機嫌だ。
原因は今朝、リュ―イが<暁の傭兵>ジェイファン・スーンの部屋に行った時、ノックを忘れていきなり扉を開けてしまった。
そして見てしまった。上半身裸のジェイと、下着姿の侍女のキスシーンを。
潔癖で初心な彼はそういうものが好きでは無い。そして何より、ジェイがそのようなことをしたのが嫌だった。
自室に戻るとバタンッと乱暴に扉を閉める。
広い部屋の中を走って豪華なベッドまで行くと、そのまま潜り込んだ。
頭まで布団をスッポリ被り、ぎゅっと目を閉じて今見たものを忘れようとする。しかし忘れようとすればするほど先程の情景が鮮明に思い出される。
その時、誰かが部屋に入ってくる気配が感じられた。
誰かなんて見なくても分かる。王子の部屋にノックもなしに無断で入ってくるような人間は一人しかいない。

「リュ―イ」

やっぱり。リュ―イは思った。
この声を聞き間違えるはずがない。大好きな、響きのいい低い声。
でも今は、一番聞きたくない声。一番会いたくない人物。
リュ―イが返事をしないでいると、小さな溜息と、ギシッとベッドが軋む音が聞こえた。ベッドに腰を下ろしたのだろう。
普通ならこんなにも無礼なことはない。重い罰が与えられる。
それを平気でやってのけ、許されるのはこの男、ジェイだけだ。

「あのなリュ―イ、話くらい聞いてくんない?」

「…………」

ジェイにしては珍しく、心底困った声色。

「あんたが潔癖なのは分かってるよ。でもね、ノックもなしにいきなり入ってきたのはあんただからね」

自分のことを棚にあげて、と反論してやろうかとも思ったが、ここで口をきいたら負けのような気がして沈黙を通す。
ジェイとしてはここでリュ―イが反論してくるのを期待していたのだが、期待が外れて残念そうに肩を竦める。

「リュ―イ、あんたいったい何に腹立ててんのさ?ちょっと教えてくんない?」

何に腹を立てているか。考えてみればいったい自分は何にこんなにも腹を立てているのだろうと、リュ―イは疑問に思った。
こんなにも怒る要因は無い。彼が誰と何をしようとそれは彼の自由だし。悪い事をしていたわけでもない。
驚きはしたが、何故怒っているのだろう。
自分の感情が分からなくて、布団から顔だけ出してジェイを見上げた。
その瞳がすっかり灰色になっていることに、ジェイは少なからず動揺した。

「……分からない」

答えになっていない答えを口にすると、ジェイは盛大に溜息を吐いて、淡い金髪をがりがりと掻く。
布団に包まっているリュ―イの顔の横に手を置いて、覆い被さるような体勢になった。リュ―イの瞳が少しだけ青に近づく。

「分からない、ね…。まだまだ子供だねぇ、うちの王子さまは」

からかう調子で言われ、リュ―イは顔を顰めた。
それを見てジェイはさも面白そうに笑う。

「俺もあんたが侍女とか子爵さまとか子爵さまとか子爵さまと親しげに話してんの見ると頭にくんのよ」

「え、どうして?」

ゾーイばかりなのは置いておき、リュ―イは疑問符を頭に浮かべて首を傾げる。
ジェイは掠めるようにリュ―イの薔薇の唇に優しいキスをおとすと、照れ隠しのようにニカッと笑った。

「つまり嫉妬だ、嫉妬。ヤキモチ妬いてんのよ、俺もあんたも」

ジェイの言葉を聞くや否や、リュ―イは再びバサッと布団を被る。
その直前に、リュ―イの青灰色の瞳が青々と輝いていたのを、ジェイは見逃さなかった。









end









***
「夏至祭」でちょろっと出た侍女とジェイの話。
「絶対後でこうなったよ!」という妄想を小説にしました。(汗)

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