二次小説

□rose・red・prince
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城の庭の一部に、庭師が丹念に世話をしたおかげで瑞々しく咲き誇っている真っ赤な薔薇の園がある。
リューイはその薔薇を見つめ、穏やかな微笑みを浮かべた。
一つ手折って姉上に持っていこうか。
姉思いのリューイらしい、優しい考えをしていると、ヒュウッと軽快な口笛がどこからか聞こえてきた。
振り返れば、ジェイが口元にいつもの皮肉な笑みを浮かべてリューイの元へ歩んできていた。
淡い金髪が日の光を受け、キラキラと輝いている。
それが神々しく見え、リューイは僅かに目を細めた。


「真紅の薔薇に微笑む麗しの王子……絵になるねぇ」


芝居がかったその口調に、リューイはクスッと笑みを漏らした。
ジェイもクッと喉の奥で笑う。


「で、なんで薔薇なんか見てニヤついてたんだ?」


「ニヤついてって……ただ姉上にお見せしたら喜ばれるだろうかと思っていただけだよ」


「ふーん…アンタ本当に姉思いなのな」


言いながら肩をすくめてみせると、リューイはにやっと、ジェイの様に笑った。
しかしそれすらも愛らしく見えるのは単に年若いせいかはたまた少女めいた容貌のせいか。


「妬ける?」


「は?」


「私が姉上のことばかり想ってて、妬ける?」


実に楽しそうに口の端を吊り上げながら言うリューイ。
ジェイは一瞬呆けたが、すぐにリューイに負けず劣らず口元を歪めてみせる。


「べっつにー?そう言うリューイくんは俺様にヤキモチ妬いてほしかったわけだ?」


「思い上がりもいいところだねジェイファン・スーン。貴方こそ妬いてほしいと思ってほしいんでしょ?」


「妬いてほしいと思ってほしいと思ってほしいか?」


「妬いてほしいと思ってほしいと思ってほしいと思ってほしいんだ」


「何をっ。妬いてほしいと思ってほしいと………」


暫く不毛なやり取りをしていたが、お互いにぜぇぜぇと肩で息をするくらい消耗したところでやめた。
そもそも何故このような言い合いになったのかも忘れてしまい、二人は顔を見合わせて苦笑する。


「まったく、何だか疲れたよ。誰かさんのせいでね」


「へっ、責任転嫁しないでもらえますか王子様?ガキンチョの相手してるこっちこそ疲れるね」


「そのガキンチョと言い合いをするなんて、貴方の方こそガキンチョだね」


しらっと言い返しながら、輝くばかりに美しく咲く一本の薔薇をそっと手折った。
美しい姉姫に贈るのならば、これくらい美しい花でなければ。
リューイは満足気に微笑んだ。


「ッ!」


「リューイ!?」


突如リューイは小さく声を上げ、薔薇を持つ右手をもう片方の手で押さえた。
剣の主の異変に、ジェイは驚きの声を上げてリューイの手を覗き込んだ。
白い指の一箇所に、鮮やかな赤い液がぷっくりと浮かんでいる。


「……刺しちゃったみたい」


「……脅かすんじゃねぇよ…」


ジェイは呆れたように、安堵したように言うと、血の出ている指を自らの口に運んだ。
一瞬の出来事に思考がすぐには付いて行けず、リューイは数秒目を瞬かせたあと、現状を理解して一気に赤面した。
そのリューイの変化をジェイは面白うそうに眺める。


「ジェ、ジェイ…もう大丈、夫……大丈夫だ…から……」


視線を泳がせ、途切れ途切れに言葉を紡ぐと、その反応に満足したのか、ジェイは最後にペロッと一舐めして手を離した。
リューイは手折った薔薇と一緒に、その手を胸に抱え込む。


「それ、王女さまに渡す前にトゲ取ったほうがいいんじゃねぇ?綺麗な花にはトゲがあるってね」


リューイは聞いているのかいないのか、顔を真っ赤にさせたままただひたすらにコクコクと何度も頷いた。
ジェイはニッと笑うと、リューイの紅潮している頬に手を添えて、耳元に唇を近づけ、囁く。


「アンタのトゲなら刺さっても本望だけど」


リューイが完全に硬直したのを見ると、可笑しそうに笑い声を上げて踵を返した。
歩いている途中で、綺麗でもウチの王子様にトゲはねぇな、と思い直す。









end









***
美少年には薔薇が似合う。美青年にも薔薇が似合う。美少女にも薔薇が似合う。
そういうことです。(は?)

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