「待てよっ」
 腕をつかんで引き止めると、いつものギンッとした瞳で睨まれる。怖っ。だけど、ここでひるんだらオレの負けだ。
「お前が好きだって言ってんだよっ、信じろよっ!」
 噛み付くように無理矢理、神田の唇に口付けた。ビックリして声を上げようと開いた口に舌をさしこみ、奥の奥まで深く犯すように舌を絡める。
「んっ…グッ、んんっ」
 腕が体を離そうともがくが離さない。信じるまで離してやんねぇとばかりに更に抱き込む。だが、
「っっ!おまえっ」
 口の中に血の味が広がる。思い切り噛み付きやがったコイツ…
「ラビ、お前は最悪だ」
 吐き捨てるように彼は言う。
逆効果?だったみたいだな…はは。乾いた笑いを心で漏らしつつも、そんな事はおくびにも出さず
「いっくらオレでもな、好きでもない奴に、しかも男にこんな事しねぇからなっ!」
 怒る神田に、こちらも負けじと言い返す。もう殴るなり斬り捨てるなり好きにしろってなモンだ。やけっぱちな気分で、その場にあぐらをかいて座り、オレは神田を見上げた。
「斬りたきゃ斬れよ、ちくしょう」
「怒っているのはこっちだ、逆ギレするな」
「お前が信じねぇからだろっ!」
「…本気なのか?」
「本気だってんだろ!」
 しばしの沈黙。重いぜ、空気、重すぎ。
 ここで、いつものように茶化すか?でもコイツ絶対笑わないしなぁ。だったら次ちゃんと生きて会えるかも分かんねぇし、きっちりケジメ付けときたいよなぁ。一応本当の本気で大真面目に惚れてるのになんで信用されねぇかなぁ…
 神田が黙って六幻を取り出す。
うわっ、こいつマジで斬る気かよっ。心の中で瞬間焦るが、その切っ先で神田はオレの顎を持ち上げるようにするので、そのまま不貞腐れたように睨み付けてやった。
「お前は…不可解だ」
「そりゃあ、どうも」
 人間なんてのは誰しも不可解なモンだろう。オレだってお前の事よく分かんねぇよ、それでも好きなんだから、しょうがねぇじゃん。
 六幻を喉元に当てたまま、神田は片膝をつく。
「不可解で、目障りだが、嫌いではない」
「…は?」
「こういう事は、同意の上でやるもんだ」
 って事はなんだ?えーと…
「シテもいい?」
 へらっと笑って聞いてみると、六幻が首筋を撫でた。
 いや、本当マジで殺されるかも…
「お前のそのなんでも茶化したような物言いは大嫌いだ」
「しょうがないさぁ、いまさらオレが真面目君になったら、お前だって気持ち悪いだろ〜?」
「……確かにな」
あっ、ヒデェ、納得しやがった。これでも根は結構真面目なんだぞ〜くそぅ。あ〜でも、なんか少し分かった。
オレは神田の瞳を覗き込む、すると彼はふぃっとそっぽを向く。その耳元でこれでもかって甘い声で囁いてやった。
「神田が好きだ、誰より一番、愛してる」
 その時の神田の顔はちょっと忘れられないくらい見ものだった。真っ赤に染まった顔で怒ったような、困った表情をして耳を押さえたのだ。いや、ホント可愛すぎ。
 六幻を握る腕を取って口付けながら、更にたたみかけるように甘ったるい言葉を呟けば彼は更に紅く染まった。
 なんだ、オレってば結構愛されてんじゃねぇか。それともコイツ耳が弱いだけか?いやいや、そんな事ないはず!…だよな?
「今度はちゃんと優しくするから、もう一度キスしてもいいか?」
 言うと、一瞬躊躇したが、彼は怒ったような顔をしながらも小さく頷いた。うあ〜マジで感動だぁ、どうしよう、叫びたい。
「本当好き、大好き、もうどうしていいか分からないくらい目茶苦茶好き!」
「うるさい、黙れ」
 なんだぁ、なんだぁ、アレもコレもそれもどれも全部照れ隠しかよ〜全部に一喜一憂してたオレってばただの馬鹿じゃん。ってか、それに命賭けさせられる方の身にもなれっての。あーもー、でもいいや、どうでもいいや幸せすぎて手が震えるわっ。
 俯く彼に口付けて、幸せをかみ締める。今度は優しく優しくな。
吐息と共に唇が離れると神田はぼそっと呟いた。
「血の味がする」
「それは、しょうがないさぁ」
 思い切り噛まれたしな。触ってみるとまだ血が滲む。まぁこのくらい、戦闘での怪我に比べればなんて事ないし。
「謝らないからな」
 言葉に笑う、本当にコイツは。
「別にいいさ」
 それよりもっと抱きしめたくて、触りたくて、ぎゅっと抱き込むと逃げようかどうしようか逡巡する気配。ここまできて逃がすかよ。にっと笑いかければ、またふいっとそっぽを向いてしまう彼に、それならと手を放せば、傷付いたような泣き出しそうな顔を向けられるので、頭を抱きこんで見えないようにしてから、ちょっと笑ってしまった。ホント可愛い。
「俺はお前が本当に分からない」
「そうかぁ?でも分かんねぇ方が楽しいじゃんか?なんでも分かったらきっとつまんないと思うぞ」
「お前相手じゃ不安になるばっかりだ」
「不安?それで今までオレ散々邪険にされてたんか?」
「別に…そういう訳じゃ…」
「じゃあ、どうしたら安心するんさぁ」
「そんなの…自分で考えろ」
 ん〜そう言われても、ここまで真剣に好きだって言っても信用されないんじゃ何しても無駄って気もするしな。それよりも、
「神田はオレの事どう思ってるのさ?」
 瞳を覗き込めばやはりそっぽを向き、更にその視線の先を追いかければまた逃げられる。
「ユウちゃ〜ん?」
「その名を呼ぶなっ…っん、んんっ」
 怒ってこっちを向いた顔を固定して、キスをしてから、無理矢理瞳を覗き込む。
「お返事は?」
「……っっ」
 恥ずかしいのか、それとも怒っているのか、また肌は朱に染まる。神田は絶対赤がよく似合うと思うんだよな、黒髪と白い肌によく映えるから。
「……だろ」
「ん?」
「嫌いじゃないって、言ってんだろ!放せっ!」
 言葉を聞いて破顔する。上出来、神田。いやホントここまで好かれてるとは思わなかったさ、マジで。これで生きる張りもうまれるってモンだ。
「……生きて帰ってこいよ」
 いつの間にか腕の中で大人しくなっていた神田がぼそっとそんな事を呟く。心配してくれてんだな、へへっ、嬉しいな。オレはぎゅっと神田を抱きしめて、このまま時間が止まればいいのにとそんな事を考えながら、次はいつ会えるんだろうと先行きの不透明さに心の中でため息をついた。

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