朝起きたら好きな人(神田)が隣で寝ていました。貴方(ラビ)ならどうする?

   選択『起こして理由を聞く』

 なんでここに神田?ここオレの部屋だよな?別にいいんだけどさ、さっぱり訳わかんねぇさ。
「おいユウ、ユ〜ウ、起きろ」
「ん〜〜〜やっ」
 や、じゃねぇだろう、襲うぞ、こら。
もそもそと更に布団にもぐりこむ神田の寝姿を眺め、どうしたもんかと思う。驚きすぎて完全に目は覚めてしまった。
「ユ〜ウ、お前の部屋は隣だろっ、一体どうやって潜り込んだのさ?」
 一応部屋には鍵がかかっていたはずなんだけど・・
「ん・・カ・メ・・」
「・・・カメ?って動物の亀か?それとも器の瓶?」
 確かに部屋には物入れ兼用の瓶もあるし、亀の置物もあるけどさ・・・
「寝言なのか?それにしてもカメ?」
 ソバとかならまだ分かるのに、何故カメ?
「・・シタ・・ふふ・・」
 下?しかもそこで何故笑う?カメの下に何かあるのか?どうにも気になってオレはベットを降りて部屋にある亀の置物と、物が突っ込んである瓶を見やった。
 間抜けな顔をしてカパーと口を開いて笑う亀の置物は、数年前リナリーが『可愛いでしょ、中国のお土産物なんだけど、幸運を呼ぶ亀なのよ☆』とオレに押し付けていった中国製の陶器の置物だった。
 一方、瓶の方は最初にここに来た時からずっと置いてある物で、そういえば一度も動かした事はなかったなと思う。
 オレはとりあえず手近にあった亀の置物を手に取りひっくり返す・・何も無い。置いてあった台の上にも何も無い。
・・・そりゃそうだよな、寝言だもんな・・・
それでもどうにも気になってオレは瓶の方も持ち上げて下を覗き込んだ。そこには、転がり込んだまま忘れられていたかのようなコインがひとつ落ちていて、苦笑した。
「宝物・・ゲット?」
 コインをピンと弾いて、もう一度神田を見ると、今度は眉を寄せて難しい顔で何やらむにゃむにゃと言っている。興味を引かれて側によると
「マル・・ハ・・コ・・・」
 マル・ハ・コ?何だそりゃ?丸い箱って事か?そんなもん・・・そういえば有るゾ?
 オレはだんだん気味が悪くなってきた。
「おい、ユウ、ユウ起きろよっ」
「ん・・・来る・・」
「来るって何さぁ?何が来るのさぁ、おいユウってばっっ」
 どうやっても起きない神田にため息をつきつつ、オレは部屋にある丸い箱を見やった。
 それは瓶と一緒でやはり元々この部屋にあった物で、しかもどうなっているのか、何をやっても開かないのだ。鍵らしき物は付いていない、でも蓋は外れず、それでも中には何か入っているようで少し軽めの音がした。見つけた当初、ずいぶん興味を引かれて色々と試してみたが、もうすっかり存在すら忘れていた。
「これに、何かあるのか?」
 そんなに大きな物ではないので、部屋の隅の方で忘れられ、埃を被っていたソレを手に取り埃を払う。よく見れば、蓋の真ん中に丸いくぼみがあって、もしかして・・とオレは先程手に入れたコインをはめ込んでみた。
「うわっ、ビンゴかよ、怖っ」
 コインがきっちりはめ込まれると、その蓋は、どういう仕組みになっているのかカチャと音を立てて開いたのだ。
「ん・・・何だコレ?指輪?」
 そこには指輪と小さなメモのような紙切れが入っていて、オレはその指輪をおそるおそる手に取った。
 しかし、その指輪は手に取った瞬間、まるで空気にでも溶けるかのように消えてしまったのだ。そして耳を掠める女性の声
『ありがとう』
「うわぁ、何!?今の何さぁっっ!!」
「うるせぇ・・何を騒いでいる・・」
「ユウ〜〜っっ!」
 オレは泣きそうな顔で神田に抱きついた。実は本当に駄目なのだ、こういうの。
 オレはかくかくしかじかと今までの経緯を神田に語って聞かせた。が、神田はそれを夢でも見たんだろうと鼻で笑った。
「でも、だったら、ユウは何で今ここにいるのさ?オレそれが一番分かんねぇんだけどっ」
「ああ・・昨日は向こう隣の部屋が五月蝿くてな・・」
「でも、この部屋だって鍵かかってただろ」
 神田は胡乱な瞳でオレを見た。なんだよ、オレ何かしたか?
「お前、亀の口の中、見た事あるか?」
「亀?」
 っていうと、あのリナリーのくれた間抜け面の亀の口の中か?そんな、普通見ないだろ、そんなもん・・・神田は見てみろと顎をしゃくる。
アレ?何だコレ?亀の口の中に何かがあった。亀の口の中に手を突っ込んで、舌の上にテープで張られたそれを取り出した・・・鍵だ。
「俺も同じのリナリーに貰っててな、多分それ、俺の部屋の鍵。俺の方にはお前の部屋の鍵が入ってた」
「って・・・え?」
 神田はふいっとそっぽを向く。やられたっ、全然気付いてなかった。気付いていればもっと早々に夜這いをかけに行ったものを・・・
「言っとくけど、気付いた時点で部屋の鍵変えたから、もうそれ使えねぇからな」
「そんなぁーー」
 でも、という事は今まで神田はオレの部屋入りたい放題だったわけか・・なんか悔しいぞ。
 はぁ、それにしても本当にさっきの何だったんだろ・・しかも神田の寝言も訳分かんねぇし。どんな夢を見ていたのかと聞けば、丸い巨大な容器に入ったたくさんの蕎麦が自分を食べろと訴えてくるので、必死になって食べている夢だったとか・・・それもどうなんだ。
 そういえば、さっきの箱の中、なんかメモみたいなのも入ってたよな、アレも消えちまったかな?あ・・残ってる。見てみると、紙にはメッセージがひとつだけ。
「・・大事な物だったんだな、きっと」
「あ?」
「なんでもねぇ、なぁユウ」
 オレは神田の耳元でそのメッセージをそっと囁くと、神田は真っ赤になってうろたえた。
「なっ!なんだっ突然!?」
「なんだろうな?・・くくっ」
 オレは笑い出す。そろそろ夜明けだ、不思議な晩だったが、こんな不思議も悪くない、オレはそう思っていた。

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