神崎成り代わり夢(本編)

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しばらくの沈黙が流れ、私は混乱が続く脳みそからようやっと言葉を絞りだした。



「……誰か、この馬鹿を窓から捨てなさい」



私が出来る、精一杯の睨み顔を作り、親指を立ててピッ、と窓を指す。
それに反応して何人かがオガ君に武器を振り下ろしたが、それが届く前にオガ君が腕を振るった。



とたん、向かっていった生徒が文字通り『吹っ飛ぶ』。



此方をまっすぐに見据えて、また一歩踏み出そうとしたオガ君に、私は蹴りを入れるために足を振り上げた。
ちゃんと顎を狙ったはずなのに、オガ君は素早く頭を動かして私の蹴りをかわす。


私は振り上げた反動を利用してバックステップをし、オガ君との距離を広げた。



(早い……。パワー型の城山君には、荷が重いって所か)



かといって、私なら大丈夫という訳ではない。
私は素早さで数を入れて相手を伸すタイプだけれど、それは自分のスピードが相手より勝っている場合だ。
それ以上に早く、そして重くされたら、まず勝ち目はない。


それに、オガ君にはツレがいる。
まだ動いていないけれど、どんな手を使ってくるとも知れない。


どんな相手か分からないのに、正直喧嘩はしたくない。


(まあ、『神崎』である以上無理なんだけれど。)


内心そう自嘲して、構える。




「私のモノに手を出した以上……。覚悟はできているんでしょうね?」



オガは黙っている。


教室の皆が固唾を飲んで見守る中、私が動いたことで膠着が解かれた。
真っ直ぐにオガに向かう、と見せかけて体勢を低くし、逆立ちの状態で顔目掛けて足を振り抜く。



「うおっ」



とオガが小さくもらした。
私の攻撃は避けられて、オガの顔を少し掠っただけだった。



足を振り上げた状態から、さらに踵を落とす。



「っと」



思い切り振り下ろしたが、これも難なくかわされた。
私の足はただ床に若干の穴を開けるだけに留まる。


オガが拳を構えているのが見えた。
次の瞬間、私に向かって思い切り突き出される。


私は急いで後ろに飛んだが、若干拳が腹に入り
少しだけ「こほっ」と息がこぼれた。



袖で口元を軽く拭い、オガを睨みつけた。





強い、怖い、帰りたい。





そんな気持ちを胸の奥に全部押し込んで、『神崎』らしくふてぶてしく笑った。





「決めた。あなた……殺すわね。」





言うか言わないかの内に、オガに向かった。



オガのわき腹に標準をあわせる。


オガに喰らえるのは、私が今できる一番早くて、重い一発だ。


大抵はこの一発で沈む。
これで決まらなかったら、私の、負け。



ふ、と自嘲とも自信ともとれる笑みが口からこぼれ、足を振り上げた。
それはオガに突き刺さる……はずだったのだが。




「ちょ、ちょっと待ってください!誤解……ふべらっ!」


「え?」





私の渾身の一発は、横から出てきたツレ君の頬に突き刺さり
ツレ君は思い切り吹っ飛んで机にぶち当たっていった。
ガシャアァァンッ!という騒音が教室に響き渡る。




「ふ、古市ーーーっ!!」


「ダーー!」





その漫画みたいなふっとびと、オガ君と赤ちゃんの声に
私が何となく戦意を喪失してしまったのは、仕方がないことだと私は思いたかった。

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