その他短編

□私は殺人鬼の夢の夢を見る。
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【注意】
・妄想編
・ゲームクリアしていないと多分意味が分からない
・ホラー・グロ







































ぼうっとした頭で考える。



歪んだ地面に立つ足は、ふらふらとして落ち着かない。
気が付けば知らない土地に立っていた。


ここはどこだ。


考えても分からない。
見覚えのない土地に見えた。
そして、事実見覚えなんてなかった。






ピョンピョンという音が聞こえて振り返る。
振り返ると女が居た。彼女の歩みにあわせてピョンピョンと音がする。

足音?

ああ、この音は足音か。


女はピョンピョンと音を立てながら歩いていく。
何の気なしに、私は彼女についていった。


暫く歩くと、城砦のようなものが目に飛び込んできた。
正面から見ているはずなのに、建物を上から見たイメージが頭に浮かぶ。

門の部分でとぎられる、ミッシングリング。
視力検査で見るアレだ。


はて、どうして正面しか見ていないのに、上から見た図が頭に浮かぶのだろう?


考えているうちに、彼女はピョコピョコと門をくぐって行ってしまった。
私も急いで中に入る。






入ると、丁度がちゃりと門が閉められた。
退路を絶たれたかなぁと門に手を当てると、なんと門はマシュマロのように柔らかな感触で私の手を受け止める。


なんだ、これは。


意味が分からないと呆然としていると、また扉の開くような音が聞こえた。
振り返ってみると、監獄のような建物の扉が開かれ、男が満面の笑みで立っていた。



「やあ真理ちゃん!ようこそいらっしゃい!」



色黒で大柄で髭面の、世間一般的に言えば『クマのような』男だ。
真理ちゃん、というのは彼女のことか。
彼女はその男に連れられて建物に入っていった。

ぼんやりと見ている私の目の前で、バタンと扉が閉められる。

ふらふらと近づいて扉に手を掛けると、先ほどまで観音開きだったはずの扉は上下スライド式になっていた。
シャッターのような仕組みの扉を上に押し上げる。







押し上げて中を覗くと、外観とは裏腹に、木をふんだんに使った柔らかで温かみのある室内だった。


入っていいものかと暫く考えて、まあいいかと中に入る。


ふと視線を感じて顔を上げると、中年より少し年をとっているといった感じの男が立っていた。
じっとこちらを見ている。


男があまりにも無遠慮にじっと見てくるので、私は若干の苛立ちを覚えて口を開いた。


「あのう」


「突然の客だ。予約していないね?なんてことだ、なんてことだ。なんて非常識なんだ君は。
でも仕方がない、こんなに酷い吹雪。吹雪だからね。しかたないしかたない。
さあ入ってお茶でも飲みたまえ。ココアかココアかココアがある。体が温まるね。さあさあさあ」



なんだこの男、気■いか?
吹雪だなんて何を言っているんだか。

くるりと私に背を向けて中に引っ込んでいく男を黙って見届けて、私は玄関を踏み抜いた。








瞬間、ふっと視界が狭くなる。
扉についているレンズを覗いているような感覚だ。

レンズの向こう側から、髪を後ろで縛った女性が此方を見ている。

扉のレンズなら向こう側から此方は見えないはずだけれども、ばっちり目が合っているところを見ると見えているのだろう。



「あなた、タナトスって知っている?」


はあ?なんだいきなり。
困惑している私を尻目に、女性はべらべらと喋り続ける。


「死への願望、っていうのかな。私そういうのが強いみたいで。
ほらみて、痣。これね、全部、俊夫さんにつけられたの。
最初は痛くて痛くてたまらないんだけれど、どうしてかしら。最近は不思議となんとも思わないのよねぇ」


うっとりとした瞳で、彼女は自分の腕にまるで何かの病気のように広がっている痣を見つめ、そして口付けた。
その異様な光景に私はレンズから顔を遠ざけようとするにも、何かに阻まれてそれが出来ない。








いや、阻まれていると言うよりは。


改めて意識してみると私の頭は押さえつけられている、おそらく手で。

私の後頭部を覆うようにして手が添えられている。
たぶんそれで私の頭は動かないのだ。


「逃げるなよ。ちゃんと見てくれ。みどり、みどりは、どうしている?」


手の人物だろうか。
若い男の声が聞こえた。泣きそうな声をしている。


「あいつは、あいつはちゃんとそこに居るのか。殴っても殴っても、あいつ、立ち上がって歩くんだ。
おかしいだろう。俺がこんなに愛しているのに、あいつはどこかへ行こうとする。
逃げるつもりなんだ。許せない。許さない。お前もだ!」


瞬間、頭に添えられていた手が離されたかと思うと、ガツンとした衝撃が頭に走った。


殴られた?でも痛くない。
頭を揺らされただけと言う感じだ。







なんなんだもう、と。その男の顔を見てやろうと振り向くと、私はキッチンに立っていた。

女性がガスコンロの前で、カレーなどを作るような大鍋で何かをぐつぐつ煮ている。



もう、私にはわかっていた。此処が何処であるか。
ずばり、ここは夢の中だ。
一貫性のないくだりといい、ちょっと可笑しな人たちだったり。



そうと分かれば何も怖い事はない。
そう、夢であると理解できれば、その夢をコントロールする事だってできるのだから。



私は急に強気になって、ぐつぐつと鍋で料理をしている唐のたった女性に話しかけた。



「何を作っているんですか?」

「これ?これねえ。何かしら、シチュー?でも煮ているだけだし。シチューじゃないわよね。
それにしても、困ったわぁ。煮ても煮ても、ちっとも煮崩れてくれやしない。
やっぱりそう上手くいかないのかしらねぇ。私料理できないし、無理だったのかも。」

「煮る?煮ているんですか?何を煮ているんです?」


女性は答えない。
私はどうせ夢だしと不敬にも後ろから鍋を除きこんで、


「ぎゃっ!」


嫌なものを見た。
思わず体をのけぞらせる。腰が抜けてカクンと膝が崩れた。









転ぶ!

そう思った次の瞬間、私はソファに座っていた。
テレビがあるリビングのような場所で、若い女三人が和気藹々と喋っている。


「でさー」

「そうそう」

「ペチャクチャ」

「パリポリ」

「もうちょっとー」

「やだー」

「アハハ」


彼女たちの会話に一貫性はない。
というより、中身がない。
何が楽しいんだと思い、ああそういえば夢だったと思いなおした。

夢なら仕方ない。
そう思ってソファに体を預ける。


「あのー」

「え?私?」

「食べますかぁ?」

「え、ああ。どうも」


ちょっとふくよかな女の子が、私にスナックの袋を差し出してきた。
断るタイミングを逃して、大人しく一つつまむ。

指先に触れた感触は、間違いなくスナック菓子などではなかった。

恐る恐る、袋からそれをつまみ出す。



「―――ひっ!いやぁっ!」


おぞましいソレを、私は思いっきり明後日の方向に投げ捨てた。











「なんやのん、けったいなやっちゃなぁ」


聞こえてきた関西弁に薄く目を開くと、でっぷりとした中年体型の男が此方を覗き込んでいた。
その後ろに、線の細い抱きついたら折れそうなたおやかな女性がたたずんでいる。



「あんさん、就職にこまってへんか?どや、わしの会社にこぉへんか。なんといってもわしの会社は実力主義や。
手当てもはずみますぅ。あんさんみたいなベッピンさんが来てくれたら、わしの会社安泰や。左団扇や。」


「誠一さん、またそんなこと。ほら、彼女も困っているじゃありませんの」


「なぁんや春子、お前はだまっときぃ。わしのやることに一々ケチつけられたらたまったもんやないわ」


「あなたは、いつもそう。私の事なんか、私の事なんか何も考えてない。若い女はべらせて、それで満足して。」


「な、なんや。今そんなの関係あらへんやろ」


「関係ない?よくも、よくもそんな!」


「う、うわわ。やめ、やめぇや!」



なんか知らないが、春子と呼ばれた奥さんが拳銃ぶっ放してますが。
オジサン涙目。

大丈夫なのかこれ。

……まあ、夢だし。大丈夫か。

そう思っていたのが悪かったのか



「こんな、若さだけがとりえの女の何がいいの!」


「わ、わわ。やめ、やめえや春子!」



銃口が、此方を向いていた。

夢だと思いつつも、冷や汗が流れる。
春子と呼ばれた奥さんの指が、引き金にかかって。

ゆっくり、ゆっくり引かれて。



私は―――










気が付くと、私はホテルの一室の床に座り込んでいた。


「はぁ……はぁ……」


夢なのに。動悸と息切れがするとか。


かくもおぞましい夢だ。
意味不明だし。なんか気持ち悪いものばかりみるし。怖いし。

自覚のある夢だと好き勝手するものじゃないな。と反省する。


「はは……ははは……はぁ」


空笑いして、溜息をついた。
ろくな夢じゃない。

こんな夢、さっさと目覚めて忘れてしまうに限る。



「早く覚めないかなー。」


変なテンションのまま自身の目覚めを待っていると、後ろでキィ、と扉の開く音がした。


まだなにかあんの?と振り向くと、ちょっと可愛い顔立ちの青年が立っていた。


あれ、夢だけど、ちょっと良いかも。


そんな事を思ったのがいけなかったのか、無表情で突っ立っていた男の子が唸る様に言葉を発する。



「……うな……」

「え?」




笑うな!笑うな笑うな笑うな笑うなああぁぁぁぁっ!!!



彼の右手が振り上げられる。
先ほどまで何も持っていなかったはずの手には、血塗られた鎌が納められていた。

そして良く見ると、いや、夢だから今ついたのかもしれないけれど、彼の服は赤く染まっていた。



「―――あ?」


とっさのことに、何も反応できない。
鎌は私の左肩目掛けて振り下ろされる。


感触は、あった。音もしたし血も出ている。
けれど、痛みがない。

それだけで私には何も現実感のない事に思えた。


彼は狂ったように鎌を振り上げ、そして振り下ろす。


笑うな。笑うな。笑うな笑うな笑うな。笑う笑うううぅぅぅううっ!笑う、な、な、な、あああぁぁぁぁぁ!


何度も何度も振り下ろされる鎌を眺めながら、夢なのに、どうしてこの少年はこんなに必死なのだろうと思った。




















目が覚める。

気が付けば何時のもベッドの上だった。

目覚ましを確認すると、まだ起きるには早い。早すぎる時間を示していた。
けれど、二度寝する気分にもなれない。


私はコーヒーを注ぎに、キッチンへ向かった。
淹れていると、カタンと音がして新聞がきたのだとわかる。

こんな早い時間に配達しているのかと感心しつつ、新聞とコーヒーをもってリビングに向かった。

テレビをつけて、新聞を広げて、コーヒーをすする。

何か面白いニュースでも載っていないかと新聞を眺めていると、ふとテレビに見知った顔が映ったような気がした。


ニュースは、いわゆる何処にでもあるような殺人のニュース。
ペンションに泊った男性客1人が、他の宿泊客11人を殺害したというものだ。
少し前から騒がれている。

テレビでは特集で、精神鑑定がどうとかという話がのぼっていた。


(まぁ、まともな神経してたら11人も殺さないわな)


そう思い、なんの気無しにテレビに目を向けて



「…………あれ?」



テレビでは、『独占公開!殺人鬼の素顔!!』というコーナーに差し掛かっていた。
それは色々とギリギリなんじゃないかと思う反面、その映し出された男の顔に冷や汗が流れる。



「…………正夢、的な?」



それは、夢で見た、あの幼顔の少年だった。






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