神崎成り代わり夢(本編)

□5(古市SIDE)
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(古市SIDE)




「とりあえずベル坊の親を探しに、まずは神崎に会いに行く!」




と、男鹿は意気揚々と3年校舎を目指して早足で歩き出した。
って、まてまてまて



「おいっ!ちょっと待てよ男鹿……!!」



呼びかけても歩みを止めようとはしない。
つーか返事もしねぇ、この野郎!



「聞ーてんのか!?マジでやばいって!!3年校舎だぞここ!!

つか、うちのトップじゃねーか!その神埼って…!!」




石矢魔高校統一に、今もっとも近いと言われている人間、神崎。
俺(男鹿もだと思うが)はその名前しか聞いたことがないが、
自分なりに集めていた、石矢魔で絡まれるとヤバイ人間トップ3に入る位の奴だ。



親がこの町一帯を治めるヤクザで、取り巻きの大半はその関係。
それだけでもやばいのに、その神崎って奴は人望があるらしく、神崎自身に魅かれて一派に属している人間もごろごろいる。


俺の経験上、そういう妄信的な奴は本当に危険だ。
そいつのためなら、自分の身なんてそっちのけで向かってくる。




「別に ケンカしに行くわけじゃねーって」




やっと振り向いたかと思うと、男鹿は清々しいほど爽やかにのたまった。
ちょっとイラッとしたのはご愛嬌とでもしてもらいたい。






お前がそう思ってても、向こうは完全に臨戦態勢ですからっ!






3−Aの教室に入ったとたん、無数の視線に射抜かれる。
男鹿が不用意に「神崎くんいるぅー?」なんて明るく入っていったからだ。


もちろんそれだけじゃないだろうが、自分のトップを軽く「神崎くん」なんて呼ばれたら腹が立つだろう。
3−Aの面々は一様にしてその目に、怒りを孕ませている様に感じた。



下っ端らしき奴らは、「男鹿だ」「あれが…」などと呟いているが、大半はじっとりと此方を見据えて動かない。
俺は血の気が引いていくような思いがした。



しばらくのこう着状態のあと、パーマをかけた男が一人、男鹿の前に立ちふさがる





「あー チョットいいですかー?

お前バカ?バカなわけ?この状況で何 よゆー ぶっこいてんの?」




頭の悪そうな話し方だ、と思ったが、その内容にはかねがね賛成だ。
俺も出来ることなら男鹿をほって帰りたい。

黙ってみていると、ベル坊が挑発?し、さらに「小物に用はねえ、失せろってさ!」と男鹿が上乗せした。
もちろん相手はキレ、「上等だこら!」と男鹿に殴りかかる。


ああ、さっそく一人沈む奴が生まれるな……、と思ったところで、良く響く低い声が聞こえた。





「待てっ!


オレが相手をしよう」



「しっ、城山さんっ!!」





第一印象は、大きな男、だ。
男鹿にとっては相手の体の大きさなんぞたいしたことじゃないが、それでもやはり迫力というものがある。

男鹿より頭一のつも二つも大きな男に、俺はさらに血の気が引く感じがした。


城山、と呼ばれた男が、男鹿を見下げながら静かに口を開く




「貴様が男鹿か……

神崎さんに何のようだ あ?」





その問いに、暫くの沈黙の後……
男鹿は、縋る様な顔つきで俺をみた。

たぶん何て言えばいいか何も考えていなかったのだろう
というか、こっち見んなよ




(しょーがねぇ……)




下手に男鹿に任せて、無意味な乱闘なんざごめんだ。
できれば比較的穏便にすませたい。
(あくまで比較的に、だ。言ってて悲しくなってくる)





「あの……すいません。

オレ達実は……神崎さんの下につきたくてきたんです。

こいつ口ベタな奴でして……」


「あ゛あっ?!」





文句ありげに声を上げる男鹿の首に腕を回して、小声でささやく




(口裏合わせろ。まず下手に出ねーと話になんねー)


「ぐ……」





納得したのかしないのか、男鹿は口を噤んだ。

一方、城山は驚いたような目で此方を見ている。





「下につきたい?」


「あ……ああっ、そーなんだよっ!!」


「敬語」


「でがすよっ!」





がすってなんだ、がすって。




「どーする」

「たしかに戦力になるぞ」

「でも 信用できんのか?」




よし、とりあえず俺たちが(というより男鹿が)戦力になるという方向に持ち込めた。
第一関門はクリアじゃないだろうか。

年中勢力争いをしているこの学校において、男鹿は不気味な存在だ。
出来れば他の奴らにとられたくない。

そう思っているはず……






「駄目だ」






だが、俺の予想はみごとなまでに裏切られる。
城山の発言は鶴の一声といった風に、教室を静まり返らせた。

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