神崎成り代わり夢(本編)

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しん、と教室が静まり返った。
机に向かって飛んでいったフルイチ?君は心なしかピクピクと痙攣している。


瞬間、背中を向けたままのオガの様子が変わるのを感じた。
覇気というものが目に見えるのなら、それが強まったような。いや、見えないのだけれども。



オガが子どもをかかえ直して、ばっと此方を向く。
その目には怒気が宿って……いなかった。



というより、赤ん坊と一緒にキラキラとした目を私に向けている。



私はその様子に、安堵したというより、引いた。
どうしてツレがやられて、そんな目をするのかが理解できなかったからだ。




オガはその勢いのままズンズンと大股で、私に歩み寄ってくる。
一瞬、本能のままに後ずさりしたい衝動にかられたけれど、ぐっと我慢した。


私の目の前まで来たオガは鼻息を荒くして口を開いた。




「……いい!」


「はぁ?」


「強ぇーし、凶悪だし、アホの古市を躊躇なくぶっとばすクソヤロー!あんた最高だ!!」





ひ、ひどい言われようだ。
悪気がなさそうな所を見ると、もしかして褒めているつもりなんだろうか




地味にダメージを受けている私に、オガはずいっ、と赤ん坊を差し出した。




「やっぱこいつの母親にふさわしい!母親になってください!」


「……どうしてそうなるのよ。頭、湧いてるんじゃない?」


「ほら!ベル坊もこんなに懐いているし!」


「ダ!」


「ちょ、ちょっと」




オガはさらにずいっ、と赤ん坊を私の目の前に差し出す。
ベル坊と呼ばれた赤ん坊は、たしかに私の胸をキラキラした目で見ているけれど……




ん?胸?




よく見ると、赤ん坊がキラキラした目で追っているのは私じゃない。
私の胸……。いや、それも違うか。鎖骨の辺りを目で追っている。


鎖骨?と考えて、「もしかして」と思いつくところがあった。


私は首から下げているチェーンに指を引っ掛け、それを服の下から取り出す。




「ダー!」




案の定、赤ん坊は私が取り出した『赤い石のついたペンダント』に釘付けだ。
赤ん坊の前でペンダントを左右に動かして見ると、それに合わせて赤ん坊の体が揺れ動く。




「……えっ」



「私じゃなくて、これに魅かれたのね。いつ見えたのか知らないけれど……。

悪いけど、これはあげられないわ。だってこれは」




私の祖母の形見、そう言おうとしたけれど、私は言えなかった。




オガが大事そうに抱えている赤ちゃんの指先が、私のペンダントに触れた瞬間。







あたりが光の洪水に飲み込まれ、私の意識はそこで途切れたから。

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