GOD BREATH YOU

□Fall
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「じゃーなーミホちゃーん」

「うるっせ、またなー」

 彼女いない歴と同じ年齢。受験の日にインフルエンザを発症し、なんとか滑り込めた偏差値底辺の男子校に通う冴えない平凡な十七歳。それが彼、川井美保を表すすべてだった。

 四人目こそは絶対に女の子が欲しかったという両親に、美保(ヨシヤス)と適当に名付けられた瞬間から、彼の不幸は始まっていたのかもしれない。

 それでも明るく素直に生きてきた美保だったが、たった今、彼は道を踏み外そうとしていた。

「うおっ、おっ、わっ」

 学校からの帰り道。大好きなアイドルグループの新曲を口ずさみながら歩いていた美保は、細い道の向こうからヨロヨロと走ってきた自転車の老人を避けようとしてバランスを崩し、冷たい雪解け水の流れる農業用水路の縁に爪先だけで辛うじて立っていた。落ちるギリギリで何とか踏みとどまっている。

「ぐぬぬぬぬっ」

 もう少し、あとほんの毛一本ほどの力で重心を水路側から道の上に戻すことができる。そう美保が希望の光を見た瞬間、目の前を猛スピードで横切っていった軽トラックの起こした風によって、彼の必死の努力は儚く散った。

「田舎なんて嫌いだあああああぁぁっ……」

 何かを求めるように伸ばした手は宙を掻き、ゆっくりと背中から水路へ落ちていく美保の断末魔ならぬ魂の叫びは、山々に囲まれた夕暮れ時の小さな田舎町に木霊して、水音と共に静かに消えたのだった。



  
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