GOD BREATH YOU

□Feast
2ページ/40ページ





「おまちゅり?」

「ああ。何せ聖アルマダール中が……いや、今や世界中の人間が神子の登場を歓迎してるんだ。暫くは、あっちでこっちでお祭り騒ぎだろうな」

 翌朝、美保が目覚めると陽はまだ登り切っていなかった。仄暗い部屋の寝台の上で、どんよりと重たい頭を抱えていた美保の前に何の前触れもなく突然現れたアゼラムが、あっけらかんと状況を告げる。

「……」

 世界中が待ち望んでいた神子の出現は、神子の塔とも呼ばれるこの城の頂上に灯が点ったことで、既に世界中の知るところとなっていた。

「いまなんじ?」

「さあな。人間の作った時間なぞ俺は知らんが、あの坊やならまだ寝てるぜ?」

「ぼおや?」

「大神官の若造だ」

「……そんなことゆえるの、あぜあむ、だけだろおね」

 月蝕の月のような赤銅色の豊かな髪と、知性を感じさせる空色の瞳。昨日間近に見たドノヴァンは、法衣さえ着ていなければ物語に出てくる伝説の英雄そのものだった。

 目の前で胡座をかくアゼラムより、よっぽど神々しいと美保は密かに思う。

「調子が悪そうだな」

「べちゅにっ。……なんだよ」

 プイと横を向いた美保の頭にアゼラムが手を乗せた。その手を振り払おうとはせず、美保はムッと睨み返す。

「別に?」

 美保の微笑ましいだけの睨みを飄々と受け流し、アゼラムは何事もなかったようにベッドから立ち上がった。彼が動くと天蓋から掛けられた薄布がひとりでに開き、窓に近付けばそれは音をたてず静かに開け放たれた。

「来いヨシヤス。夜が明けるぞ」

「……」

 のんびり朝日を拝むような気分ではない。どうしたら家に戻れるのか、美保の頭はシクシクと痛む。

「て、あで? いたくない」

「ほら見てみろ、今朝のメルデは一段と美しい」

「……?」

 目覚めと同時に痛んでいた頭痛は治まり、寧ろスッキリ爽快な頭をポリポリと掻きながら、美保はアゼラムの隣に立った。白いワンピースのような夜着が、ハタハタと風にはためく。

「みえないし」

「おっと、そうだったなおチビさん」

 身長が足らずに眼下の街を見られない美保を、アゼラムが片腕でヒョイと抱き上げた。

「うわぁ……」

 白く消えゆく夜の名残と、朝焼けに浮かぶオレンジ色の街の向こうからゆっくりと陽の昇る光景は、美保の胸を妙にざわつかせるのだった。





「おはようございます神子様。今朝の御加減は如何でございますか?」

「……ふちゅう」

「それはようございました。お湯のご用意ができております。先ずはお顔を洗いましょう、今日のお召し物は神子様の瞳と同じお色のドレスなんですよ」

「……」

 また煙のように姿を消したアゼラムと入れ替わりにやって来た神官達の世話を受け、陶器の洗面器に張られたお湯でパシャパシャと顔を撫でる。

 湯に浮かぶ薄紅色の花弁を避けながら、羞恥で逃げ出したくなるのを美保は必死に抑えるのだった。

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ