GOD BREATH YOU
□Feast
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「はだへったぁ……」
朝食の間にて、せっかくの焼きたてパンが冷めていくのを目の前にしながら、美保はお行儀よく椅子に座って大神官が来るのを待っていた。早朝から何やら問題が起こったらしく、ドノヴァンは仕事中とのことだ。
「私ちょっと行って様子を見て参ります。神子様をこんなにお待たせするなんて」
きゅるきゅると鳴り続ける美保の腹に、控えていた神官達が焦りだす。
「いいよ。しごとだもん、しょおがないよ」
そう言いつつ、パンの一つくらいなら先に食べてもいいかなと美保は思っている。そんな一見健気な美保の様子に神官達が益々眉を顰めた頃、漸く部屋の扉が開いた。
「すまぬヨシュアス! 遅くなった」
「っ……うん」
朝っぱらから派手な金色の法衣に身を包んでいるドノヴァンに、美保は顔を引きつらせた。しかし髪は乱れ、肩で息をする彼の姿に文句を言う気にはなれない。
「こんな格好ですまぬ。急な来客があってな」
「へいち。おちゅかでさま」
きゅるるるる
「……またこんなこともあるだろう。次からは私を待たずともよいからな」
「うん」
美保の腹の虫は聴こえなかったふりをして、ドノヴァンは早々に食卓に着いた。神官達がテキパキと給仕をする。
「こで、おいしー」
赤い大根おろしのような物体をパンに乗せて一口かじると、果物とは少し違う甘さが広がった。甘過ぎず、さっぱりとした口当たりが美保の口に合ったようだ。
「それはジェドと言って甘く煮たカブをすり潰した物だ。気に入ったか?」
「むん」
「そうか。ああそうだヨシュアス」
「む?」
「今日はこの後、被服班が来るぞ」
「ひふくはん?」
何やら恐ろしげに響く言葉に、美保は少し恐くなった。
「ヨシュアスの法衣の仮縫いだ。ドレスは嫌だと言っていただろう? だから少し急がせた」
「あぁ……」
美保は改めて着ているドレスに視線を落ろした。紫色の柔らかな布地でできた膝下丈のドレスは、胸の下の所で切り替えられ、フリルが何重にも重なっている。中に履かされた白いタイツが、まるでピアノの発表会のようで恥ずかしいのだ。
「そで、いちゅでちるの?」
「そうだな……早ければ明日中、明後日にはできるはずだ」
「そっか」
思っていたより完成が早そうで、美保の気持ちが少しだけ浮上した。
「仮縫いが終わったら城の中を案内しよう。とは言っても、私もまだまだ詳しいとは言えん。一緒に探検だな」
「このかっこでえ?」
「あ、そうか嫌か」
「ちょっとね」
「ふむ、しかしそれでは退屈だろう。何か本でも持ってこさせよう」
「あの……どのばんさん」
「呼び捨てでよい。何だ?」
口の中の物をしっかり飲み込むと、美保は改めてドノヴァンをまっすぐに見据えた。
「このせかいのこと、おしえてください」
「ヨシュアス……」
自分を見つめる大きな瞳に強い決意を感じとり、美保の出した答えを思うとドノヴァンの心中は不安に揺れるのだった。