GOD BREATH YOU
□Sacredness
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「ここが神子の間だ。ヨシュアスは、あの天井から光と共に降ってきた」
その夜、出立を明日に控えた美保とドノヴァンは、城の隣に建つ大神殿を訪れていた。見上げた高い半球形の円蓋には神話の神々が色鮮やかに描かれ、それを丸く縁取るように歴代の神子達の小さな肖像が並べられている。
入口扉の正面にはギリシア彫刻のような白い老人の石像が鎮座し、二人を静かに見下ろしていた。
「ふってちたの?」
「ああ。この神子像に向かって祝詞をあげていたら突然天井が水面のように揺らめいて、ポトリと腕の中へ落ちてきた」
「おぼえてないや、いたくなかった?」
「ヨシュアスくらい軽ければ、なんでもない。だが、その後が大変だった」
「あと?」
「ああ、一年も待ったのだ。皆油断していてな? 裸の子供を抱えて城に戻った私を見て、とうとう乱心したかと騒ぎになったのだ。くっくっ」
「へ、へー……」
当時を思い出して面白そうに笑うドノヴァンに、当の本人は苦笑した。聖職者である彼が全裸の少年を抱えて廊下を歩く様は、さぞや怪しいものだったに違いない。
元の世界に戻るヒントでもないかと美保は天井の絵に視線を移した。
「ねぇ、どのばん。あのこも、かみさま?」
薄布を靡かせ天空を舞う壮麗な姿で描かれた神々の脇に、ひっそりと立つ民族衣装の少年の絵に目が留まる。
「いや、彼はツクモ族の頭領だ。何百年も生きる不思議な種族だな」
「すげー」
「あの絵の通り子供の姿のまま長く生きるせいか、古い時代には魔性と呼ばれ迫害されてきた歴史がある」
「はくがい……」
「大丈夫。今では神殿と三国の協定で手厚く保護されているからな」
「そっか、よかったあ」
素直に顔を綻ばせた美保に目を細め、ドノヴァンは銀の頭を優しく撫でた。
「ウォルドンに向かう道中に彼らの村がある。少し寄り道して会って行くか? ツクモ族は博識だと聞くし、もしかしたら帰る方法を知っているかもしれん」
「おお! おーしっ、よりみちけってーっ」
厳粛な空気の充満する静かな会堂に、美保の元気な声が響いた。
「だいじょおぶ? まっく、かおいどわるいよ?」
「ご心配ありがとうございます。少々寝不足なだけでございますから、大丈夫です」
翌朝、目の下に隈をこさえた酷い顔色で部屋を訪れたマクエルベスを気遣う美保に対し、いつも通り恭しく応える彼の態度に美保は微かな違和感を覚えた。
「むりしないでよ?」
「はい。朝食に参りましょう神子様」
薄く微笑む表情に変わりは無く、その違和感が何なのかハッキリしないまま、美保は差し出された彼の手を握った。