短編


□BL的動物擬人化恋愛模様[完結]
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 短い黒髪と黒い繋ぎに身を包んだ全身黒ずくめの男が、両手をポケットに突っ込んだまま長い尻尾を気怠そうに揺らして立っている。

「オメーらも、そんな頭の弱ぇガキ相手に盛ってんじゃねえよ情けねえ」

「なっ、なんだテメェ!」

「へっ、どうせお前もご同類ってやつだろ? だがコイツは俺らの獲物だ。まあ俺らが楽しんだ後ならヤらせてやってもいいけどよ」

「ぁあ?」

 キツネのセリフに男の眉と黒い三角耳がピクリと反応した。ポケットから手を出すと、男は音もたてずに3人の前に降り立った。

「……?」

 ただの黒ネコに見えていた男は目の前に立つとキツネより遥かに背が高く、予想外に体格の良い彼をイリヤは不思議物そうに見つめている。

「チッ」

 明らかに自分の状況を理解していないイリヤの表情に舌打ちした男は、面倒くさそうに頭を掻いた。

「な、何だよやんのかよっ」

 はぐれネコ程度ならイタチと二人で何とかできると高を括っていたキツネも、男から漂う圧倒的な強者のフェロモンに気圧され耳を伏せている。

「やるのは構わんが。取り合えずそのガキをはな……」

「はわあっ!?」

「アニキ!?」

 キツネは男の言葉が終るのも待たずにイリヤを肩に担ぐと、呆気にとられるイタチを置いて側にあった非常階段を猛然と駆け上がった。カンカンと金属音が鳴り響く。

「コレは俺んだ! 渡してたまるか!」

「クソッ、面倒くせえ」

「へっ? ぎゃああああっ」

 男は無言でイタチの胸ぐらを掴むと、逃げるキツネをめがけて力任せに放り投げた。イタチの体は一直線にキツネの背中に向かって飛んでいく。

「どわっ!?」

「ぎゃあっ」

 イタチの衝突でキツネの肩から放り出されたイリヤの体は、階段の手刷りを飛び越え宙を飛んだ。幼馴染みも認める運動音痴の彼に、ネコ捻りのような芸当が出来るわけもなく、イリヤは目を瞑り痛みが訪れるのを待つしかない。


「おい」

「うぅ……」

「おいって、目え開けろバカ」

「う?」

 至近距離から聞こえた男の言葉に、黒目勝ちの大きな目がキョロリと開いた。恋愛映画のヒロインのように男に横抱きにされ、イリヤは間近にあった端整な男の顔を潤んだ瞳でキラキラと見上げる。弱者を震え上がらせる鋭さと、恐ろしく落ち着き払った獰猛な男の横顔。

「おいガキ、大丈夫か? 頭でも打ったのか?」

「かっこいいー」

「は?」

 頬をほんのり紅く染め、うっとりと自分を見上げるイリヤに男は眉を顰めた。薄い灰色のふわふわの髪。色白のもち肌に軟らかそうな桜色の唇。庇護欲をそそる幼い顔はそれだけで罪が大きいが、本人が無自覚に色々垂れ流しているところが致命的だった。

「助けていただいてありがとうございます」

「……」

 男はイリヤから顔を反らすと、黙って地面に下ろした。

「僕は、イリヤ・ロボロフスキーです。あなたは?」

「何でもいい。お前は学校に行くんじゃないのか?」

「はいっ。でも、ちゃんとお礼をしないとー」

「そんなもの必要ねえ。遅刻するぞ」

 早く行けとばかりに背を向けた男の長く黒いシッポには、うっすらと豹柄模様が入っているのをイリヤは見逃さなかった。

「また、会えますか?」

「さっさと行け」

「……僕の家はアニマルライフ研究所です! 待ってますからー!」

 イリヤは泣きそうな声でそう叫ぶと、大通りに向かって走っていった。小さな影が角を曲がり姿が見えなくなる。

「……おいオメーら」

「ひっ!!」

 非常階段の上で息を殺し、こっそりと成り行きを見ていたキツネとイタチがサッと顔を引っ込めた。

「二度とあのガキに手ぇ出すんじゃねえぞ」

 威圧感のある低い声が二人を縮みあがらせる。恐る恐る下を覗けば鋭い金色の眼光が二人を突き刺していた。

「ち、ちくしょうっ! 俺だって、俺だってアイツが本気で好きだったのにっ」

「アニキィ」

 わあわあと泣きだしたキツネの背中をイタチが優しくあやす。

「クロヒョウさん絶対絶対来てくださいね! 待ってますからねーっ!」

「っ!?」

 妙な空気が流れる空間へ、去った筈のイリヤがひょっこりと顔を出し、男はやれやれと溜め息を吐いたのだった。

 
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