双子
「カガリはもっと、意識するべきよ!」
そう言い放った赤毛の少女は、体の前で腕を組み、仁王立ちをして当のカガリを見下ろしていた。
「…は?」
何のことだよ、と、理解していない様子のカガリはその黄金の双眸を少女の方へと向ける。
「フレイの言ってる意味がわかんない。」
そう言って、自分の机に片肘を付き、興味なさ気に視線を泳がせた。
その様にフレイと呼ばれた赤毛の少女は、はぁ、っと盛大に溜息を吐いた。
「あたしにはあんたがわかんないわよ。」
フレイはもうどうでもいいといった感じで、先程までの勢いは何処へやら、カガリの席の横にある空席へと腰を沈めた。
その瞳の中に、黄金の彼を映す。
視界から零れ落ちそうなほど綺麗な金。
それが彼だ。
「(ほんと、何考えてるのかしら。)」
フレイにはそんな美しい彼の思考なんて、全くといっていいほど理解できなかった。
だけど、こんな彼だからこそ、女の子はみんな虜になっていく…。
今日のお昼休憩に、彼女の後輩が、頬を紅潮させフレイの元に駆けて来た。
『フレイ先輩、カガリ先輩と仲いいですよね?』
最初にかけられた言葉は、挨拶などではなく、そんな言葉。
眉間に皺を寄せながらも、フレイは彼女の問いに答えた。
『ええ、そうよ?』
そこから気になったフレイは、一気に後輩に詰め寄った。
案の定、聞き出した内容は、彼女の予想通りのものだった。
『カガリ先輩って、優しいですよね。好きに…なっちゃいました。』
恥じらいながらそう言う後輩を、フレイは愛らしいと感じた。
昼の出来事を思い出し、フレイはまた、大きく溜息を吐いた。
目の前のカガリは、何だよ。と、フレイを一瞥する。
「これだから、天然フェミニストは…。」
「はぁ…?」
「だから、もう少し意識しなさいよ…。」
「何のことだよ。」
会話になっていない二人の会話を遮るかのように、廊下から彼を呼ぶ声がした。
「カガリ!」
「あ、キラ。」
フレイはキラの姿を認めるや否や、そうか。と諦めた表情を作る。
「お待たせ、帰ろう?」
「そうだな。」
「…血ね。」
「「…は?」」
どうして初めから気付かなかったのだろうか。
キラの存在に…。
「あんた達双子は、女にとって毒だわ!」
「「…え?」」
目を丸くして驚くキラとカガリをよそに、フレイは自分の意見と解釈を語る。
「あんた達は気付いてないかもしれないから教えとくわ!夜中は背後に気をつけなさい、いつ女の子に襲われるか、わかんないんだからッ!!」
あっけにとられた表情のキラと、心外だと言いたげな表情のカガリ。
フレイはそんな二人を気にすることなく、満足だ、といった表情だ。
「じゃ、あたし帰るわ。さよなら。」
そう言って、フレイは教室を後にした。
残されたのは、金と茶の双子のみ…。
「なぁ、キラ…。フレイ、どうしちゃったんだ??」
「…さぁ?嫌なコトでもあったんじゃない?」
フレイの去っていく後姿を見送りつつ、双子はそれぞれの意見を発した。
ただ、フレイは気付いていない。
カガリは天然だが、キラはそうではないことに…。
「それにしても、遅かったな?」
「ゴメン、女の子と喋っててさ。」
「…またかよ。」
キラは、確信犯だということに。
同じ双子でも、違う二人。
夕焼けに照らされながら、二人の影が伸びていた。
双子