電車
駅までのんびりと歩く。
次の電車が来るまで、あと五分。
いつも余裕をもって行動する彼にとっては、多少遅いくらいだ。
ただ、親友であるあの双子の兄弟から言わせると、かなり早い。らしい…。
待ち合わせの時間が、これから三十分後。
電車でその目的地まで約十五分。
「また早いって言われるか…?」
例の双子を思い浮かべながら、彼はぽつりと言葉を漏らした。
駅に着いた彼は、目的地までの切符を購入すると早速改札を抜け、ホームへと姿を消した。
電車はまだ来ないので、彼は一人佇んで待ち惚けるしかなかった。
突然、彼の携帯が、彼にメールが来たことを知らせる。
音は鳴らない。
常に着信音をバイブ設定にしているのが彼の癖だった。
彼は静かに携帯を開き、内容を確認する。
≪今から電車に乗る。十分くらいで着く。 カガリ≫
はぁ、と彼は溜息をついた。
カガリが居る場所は自分の今いる駅と目的地の駅の丁度中間。
珍しく早く行動したカガリに対して舌打ちをする。
その理由に彼は気付かないが…。
≪今から八分後に、今お前の居る駅の三番乗り場に来る電車。一両目。俺の今から乗るやつ。 アスラン≫
そのメールを送信した後、アスランは再びはぁ、と息を漏らす。
「馬鹿だな…。」
そんな頃ようやく、アスランの待っていた電車がやってきた。
カガリがちゃんと一本前のに乗らずに駅で待っているのか心配になったが、まずはとりあえず自分がこの
電車に乗ることにした。
思ったより他の乗客は少なく、車内はがらんとしていた。
勿論余裕で座れたので、アスランは迷うことなく広々とした一角に腰を下ろした。
その時、再びメールが来た。
送ってきた相手は誰なのか、既に見なくてもわかっていた。
ただ、その内容にアスランは眉根をひそめる。
≪馬鹿野郎!もう乗っちゃったじゃんかー!! カガリ≫
「どっちがだよ…。」
そう言いながらも、アスランのメールを見たときのカガリの慌て様を想像し、アスランの顔はにやける。
そして、返事を打つ。
≪ばーか。 アスラン≫
数秒もしないうちに、カガリから返事が返ってくる。
≪だって!お前と一緒が良かったのに…! カガリ≫
彼はどうしてこんなにも、俺を喜ばせることが上手いんだろう。
アスランはにやける口元を、その大きくてでも綺麗な手で塞ぎ、笑い声が漏れるのを押さえた。
「馬鹿な奴。」
本当に馬鹿なのは、自分なのかもしれないけど。
そう気付くには、まだまだ時間が足りない。
がたんごとん、がたんごとん。
電車に揺られながら、アスランはもう一人の待ち合わせ相手にもメール打つ。
≪カガリが先に着く。二人で待ってろ。 アスラン≫
既に目的地に居るその人は、すぐに返信してきた。
メールの返事が早いのはこの双子の共通点の一つだ。
≪了解。二人一緒に来ればよかったのに。 キラ≫
そうだよな。と思いながらも、それをしなかった自分を責める自分もいない。
「カガリが先に乗るから…。」
そう理由付けて、彼は自分の気持ちを再び濁す。
電車は、いつもと変わらず、時間通りに運行している。
規則的な揺れに、心地良さを感じながら、アスランもまた、そのレールから外れる事はまだできない。
だけど、このままで居るのは、何だか違う気がして…。
電車の窓外に広がる景色を見ながら、アスランは思う。
ああ、いつもの景色だ。
電車