**片思いのその先**
□慣れと戸惑い
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『リョーマ…その本はそこではなく、そっちの棚だ』
「へぇ、そうなんだ」
放課後、青春学園中等部の図書室では御影とリョーマは忙しそうに机の上にたくさんの本を二人で動き回りながら定位置に戻していた。
「大体、何で俺が本なんか整理しないといけないわけ……」
『仕方ないだろ、図書委員とやらの職務なのだから』
「職務って…アンタ、大袈裟すぎだから・・・」
リョーマは愚痴りながらも御影と共に机に散乱している新しい本を整理していた。
御影は転校してきて間もないがリョーマと同じ図書委員になった。
その理由は簡単、リョーマを監視する任務のため、何かあってはもともこうもない…
なので御影自身、納得はしていないが任務のためリョーマと殆んど一緒に行動を共にしている。
最初は互いに嫌がってはいたが、ここへ来て2ヶ月もたてばさすがに慣れてしまう。
今では周りから付き合っているのではと誤解されるほどの仲。
本題に戻ろう・・・
なぜ二人が本棚の整理をしているかというと、
たまたま図書当番だった二人に先生から新しい本が入ったからと整理を押し付けられたのが事の始まりだった。
根が真面目な御影は断るわけもなく
それを了承した。
リョーマも御影が承知した為、やらざるを得ない状況になってしまい・・・
そして、今に至る。
『それに、先程も言ったがそんなに嫌なら部活にいけばいいだろ…』
「それとこれは別…」
『・・・・・・』
(相変わらず、理解に苦しむ・・・)
本当ならこの時間、リョーマは部活に出なければいけない・・・
だからこそ、御影は『自分一人でする』と言ったのだが・・・
リョーマはなかなか部活へ行こうとしない。
図書室には二人しかいないので窓の外から部活に勤しむ生徒達の声が聞こえてくる。
「御影、これどこ?」
『ハァ、それはここだ…いい加減本の場所と種類くらい覚えておけよッ!』
「あー、はいはい」
『。。。ハァ-』
御影は周りから文学少女と言われるくらい、何かしらの本をいつも持ち歩いていた。
読書好きの御影は図書室の本をいつも利用しているため、本の配置は全て把握している。
先生が二人に任せたのも、御影がいるからだろう。
「はぁー…なんとか片付いた…」
リョーマは大きく背伸びをし、部活へ行く準備をし始める。
『お疲れ。後少しで部活終了時刻だろ、なのに行くのかい?』
「それでも、ひと試合くらい出来るから。それに俺、一応部長だしね…
顔だけでも出さないと竜崎先生うるさいし、示しつかないから」
『へぇ…何だかんだでお前も上に立つ顔出来るんだね、なんか意外・・・』
「何、馬鹿にしてる?」
『別に、馬鹿にはしてないさ。ただ、何にでもこのくらい真面目ならなって思ってね』
「なにそれ、やっぱ馬鹿にしてんじゃん・・・。まっ、いいや。じゃっ、俺行くから」
『あぁ。あたしはここに居るよ、頑張ってこいよ』
「ん・・・」
出入り口付近で後ろを向いたまま拳を握り軽く上へ上げながら図書室を後にして行った。
『なんだ…、なんか胸が変…』
(胸がぽかぽかするみたいな・・・)
リョーマを見ているとたまにこんな症状に見舞われる。
ぽかぽかするけど胸が締めつけられる、そんな不思議な感覚…
窓の外はもう夕陽が跡形もなく消え去っていた。