学園BASARA

□トマトの熟れる頃に
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放課後、昼下がり。

私は校庭の一角にある畑へと来ていた。



まだ青いトマトたちを見つめていると、



「…来てたのか」


少し低めの、私の大好きな声がした。


『片倉先生』



立ち上がって にこり、と笑うと、片倉先生は呆れたような、困ったような顔で苦笑した。


「お前も暇な奴だな」

『優等生だから追試がなくて早帰りなんですよ〜』


私はこんな軽口のやり取りが大好きだ。


でも先生が、だからって普通女子高生が畑なんか来るか? って呟いたのには少しむっとした。

ここにいることが許されてないみたいで、悲しかったから。




だから私は、絶対この人が困り顔になる話題を振ってみた。



『政宗は相変わらず今日も追試地獄ですけどね〜』

「……はぁ…」



あ、眉間にシワ。

いつもこんな顔で政宗に説教してるのかな。

想像するとちょっと可哀相かも?

片倉先生って顔怖いもんね




「…なぁ」


少し失礼なことを考えていたら、小難しい顔の先生がこちらを見て呟いた。



『はい』

「お前、政宗様に勉強教えて差し上げてくれねぇか?」

『それはイヤです』

「…即答だな」

『だって、骨が折れるんですよ?全然話聞かないし』



確かにな、と片倉先生は笑う。

自分から振った話題でも、政宗の教師役は断固お断りだ。

と、いうか先生が教えれば済むことなのにどうして私に頼んだりするのだろう。




『もしかして反抗期なんですか?今更?』


ふと思いついたことを口に出してみたのだが、何とも言えないという感じで


「あ?いや、そうじゃねぇんだが…な」





あ、お茶を濁した。

理由を教えてくれる気はないようだ。

その証拠に、先生は少し居心地が悪そうに顔をしかめて話題を変えた。


「あー、話しすぎたな。畑の世話すんのが遅くなっちまった」

『あ、すみません』




そういえば先生は畑仕事をしに来たのであって、私と話をするためにいるのではなかった…と、改めて気づかされては、胸の奥の方がチクッとした。

やっぱり今日は来なければ良かったかなぁ、なんて後悔していたら、


「お前も手伝え」

『…え?』



予想外のことを言われた。

急すぎて戸惑ってしまい、しばらく答えられずにいると 



「…トマト」

『はい?』

「見てたんだろ?トマト。どうせなら世話していけ」




どうやら私は畑好きの今はやりの農業ガールだと思われているらしい。

好きなのは畑じゃないんだけどな、と苦笑しつつとりあえずお礼を言っておくことにした。


『ありがとうございます』

「…おう」






まだトマトは青い。

水をやると夕日があたってキラキラと輝き、なんとなく優しい気持ちにさせられた。
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