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□風邪の功名
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「っくしゅんっ!!」


仕事部屋中に響き渡る私の盛大なくしゃみに周りのアシスタント達やエイジが、こちらに視線を集中している。


風邪ですか?、大丈夫ですか?、口々にアシスタント達の私を案じる台詞が飛び交う。


「あ、すみません…ちょっと寒気が…」


ずびっと鼻を啜りながら苦笑いを浮かべて応じると、その光景を見ていたエイジが、ガタンと椅子から立ち上がり私のデスクまで歩み寄って来た。


「無理しないで下さい。そう言えば朝から顔赤いですよ?熱あるんじゃないです?」


「エイ、あ、新妻先生っ、私なら大丈夫、です…」


エイジと呼びそうになって私は慌てて新妻先生と言い換えた。




エイジと私が付き合ってるのは誰にも内緒。




それなのに────



「嘘です。───だって、」


「っ!?///」


何を思ったのかエイジは、自分の丸出しの額を私の額に、ぴっとりとくっつけてきたではないか。


ひゃぁぁぁっ////



すぐ目の前にはエイジの整った顔。アシスタント達の視線を感じ、私は身体中の血液が沸騰するようだった。


「ほら、やっぱり熱いです。熱あるです」


エイジの額が離れて視界が拓けた先にはアシスタント達が口をあんぐりと開けて真っ赤な顔で私達を見ていた。


…まあそれがまともな反応だよね…。絶対もうアウト。私達の関係、バレちゃったよね……υ


周りに冷やかされたり煩わしいのが嫌だから付き合っている事を秘密にしようと言い出したのはエイジの方じゃないか…それがなんでこんなあからさまな態度を…バカエージ…


私が一人、悶々と考えていると頭上からまたエイジのKYな発言が降り注いだ。


「そーですっ!少しの間、僕の寝室で休んでればいいですっ!その儘、泊まってけばいいですよ!」


「…っ!!υに、にーづま先生っ!!…」


私はついエイジの失言に我慢出来ず立ち上がりエイジを睨み付けてしまった、その瞬間────



「あ───」



頭がズキンと痛み、身体がふわりと浮いた錯覚に陥り、目の前が真っ白けになってエイジが視界からぼやけて消えた。



バタァァンッと響く鈍い音と身体に走る激痛によって私は倒れてしまったのだと、かろうじて自覚する事が出来た。


椎名さんっ!?、アシスタント達の大きな声に混じって、エイジの「愛子…っ愛子っ!!」、と私の名前を必死で叫ぶ声が頭に響き、私は薄らいでいく意識の中で思った。




仕事中は、ちゃんと名字で呼ぶって、

約束してたのに…ダメ、じゃない…、





バカ、エージ……──────



────そこで私はついに意識を手離してしまった…。




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