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□甘く呼んで
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エイジと付き合い始めて丸5年が経とうとしていた。


「愛子、お腹すいたです」


「はいはい」


エイジがそう言えば私は簡単な手料理をささっと作る。


「愛子、ここ汚れちゃったですー」


エイジがそう呼べば私はテキパキと仕事部屋の掃除をしてゴミをまとめる。


「愛子、お風呂入るです」


エイジにそう言われれば私はお風呂の支度をして脱ぎ捨てられた衣類を洗濯機にかけ風呂上がりにエイジが着るパジャマや下着を用意する。




愛子ー、愛子〜……


エイジが私の名前を呼ぶ時は大抵、何か要望がある時だ。


付き合い始めた頃とは少しずつ何かが変わってきている気がした。


昔は、エイジが私の名前を呼ぶ時は決まって、エイジが甘えたい時で、私も名前を呼ばれる度にドキドキしていたものだ。


それが今じゃ名前を呼ばれる度に、あれしてだの、これしてだの……



私はあんたのママでもなければ家政婦でもないのだと怒鳴りたくなる衝動に駆られる事もしばしば…。


この苛立ちがどこから来るものなのか本当のところ、自分が一番よく解っていた。





私も、いつまでも若くはないんだって、


エイジは解っているのだろうか。






最近、同年代の友人や同僚の結婚ラッシュが次々と相次いで私は内心焦っていた。


だからと言ってエイジにそれを急かすつもりもないし増してや自分から逆プロポーズなんて……


男と女の結婚の価値観の違いはあって当然だと思う。


相手が恋愛に鈍感なエイジなら尚更だとも解っている。


今、付き合ってる事自体が奇跡のようなものかもしれない。




この奇跡のきっかけは私から告白したのが始まりだった。


好きだと告げて返ってきたエイジの答えは、



『僕も愛子さんの事、好きかもしれないです。いえ、きっと好きに違いないです』



なんとも本気なのかそうじゃないのか曖昧な答えに当時の私は、エイジらしいな、とすら思っていた。




────しかし今思うと、私はエイジのその言葉に疑問を抱くようになっていた。


好きなのかどうなのか…好きかもって何?


もしかしたらエイジはあの時、そんなに恋愛感情は無くて自分に好意を寄せる私が珍しくて取り敢えずで付き合ってみただけではないのだろうか…



そしてズルズルと…5年も月日が経ってしまったとか…?



結婚なんて今更だとか思ってるとか?事実婚だけは勘弁して欲しいな…




「愛子、さっきから難しい顔してどうしたです?」


突然エイジに顔を覗き込まれ私はぐるぐる渦巻く負の感情からハッと意識を戻した。




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