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□二人だけのセレモニー
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2013年1月


成人の日の一週間前。
晴れ着姿の綺麗に着飾った女の子達に混ざっている貴方を想像すると少し心配になっちゃうけど、でも一生に一度の大切なお祝いだから、



だから────



「新妻先生、成人式行かないんですか?」


「だって漫画描かなきゃです」


ズビーッと鼻水をすすり相変わらずの猫背で原稿を描き進める新妻先生に私は今、説得をしていた。


「一生に一度のお祝いなんですよ?節目節目のお祝いは大切にするべきです。とくに成人なんて…親御さんも楽しみにしてる筈ですよ?」


「だからってわざわざ青森に帰るの面倒くさいです」



…この人って人は…、私が肩で深い溜め息をついていると、新妻先生はゆっくりと重たい頭を上げて私を見上げてきた。



「……愛子さんが一緒について来てくれるなら……帰りますケド」


「え?」


新妻先生のゆらゆら揺れる瞳が私の視点を絡め取る。


……い、いやいやいや!


「何を言って…私なんかがなんでっ…一緒に行く理由が無いじゃないですかっ///てゆうかっ、そーですっ!帰らないならせめて写真だけでも撮ればいいんじゃないでしょーかっ!?ちゃんと写真館でっ!写真だけでも残しておけば記念になりますしっ!後でご実家に送れば親御さんも喜びますよきっと!」



新妻先生の真っ直ぐな視線と突拍子な発言に私は一人赤面し、あたふたと勝手にうろたえていた。


「……写真ですか。それなら東京でも撮れるですね。じゃあそれでいいです」


眉尻を下げ、少し不満そうに呟くと新妻先生はまた原稿に視線を落としペン入れ作業を再開した。


…今のはなんだったのだ。私が一緒について来るならって言った新妻先生の真意が気になって仕方が無いけれど……


別にそこに深い理由は無く、ただそう言えば私が説得をやめると知っていてあんな事を言っただけだろうと私は必死に自分に言い聞かせていた。


そうしないと、今の煩わしい程にうるさく響く心臓の鼓動の仕業で私の感情が保ちそうになかったから。




──────────────


───そして迎えた成人の日の朝。



「うわぁ///素敵ですっ新妻先生」


「そうです?…スーツなんて初めてで窮屈ですケド」



この日の為に誂えた黒のスーツに薄いブルーのクレリックシャツ、そして春らしいピンクのネクタイを合わせた今日の新妻先生はいつもと違ってちゃんと成人に見える。


「ふふ///なんだかフレッシャーズみたいですね」


「新成人ですから」


ニッと笑う新妻先生に微笑み返すと、ほんのり幸せが漂う。


「あ、新妻先生ネクタイ曲がってますよ…」


「ん、そです?」


ネクタイの結び目に手を伸ばすと自然と顎をクイッと少し上げる新妻先生。


些細な仕草にすら、いちいち反応してしまう私の感情。


ちらりと見える喉仏が、自分はいつまでも少年では無いのだと私に見せつけているようで、大人になる彼を少し惜しんだ。


永遠の少年は、大人になるのだ。



そしていつかは、素敵な女性と巡り会って、私が毎日している新妻先生の身の回りの世話もその彼女がするようになってしまうのか────



「あの、愛子さん、まだです…?」


「へ?あ、すみません!はい!出来ましたよ!」


私がネクタイから手を離そうとした時、新妻先生の喉仏が、上下に動いて喉がぎゅるっと鳴った。


「……愛子さん」


「え、はい?───」


視線をネクタイから新妻先生の顔に向けると、すぐ間近には赤く色付く彼の顔があった。


「今日から僕も大人の仲間入りですよね……やっと、愛子さんに追い付いた気がします」


……へ?、新妻先生の台詞の意図が解らず目をぱちくりさせていると



「おお!もうこんな時間です!早くしないと約束の時間に遅れちゃうです!」


「あ、そうですね!」


新妻先生はバタバタと慌ただしく玄関へ向かい慣れない革靴を履いて私達はマンションを後にした。




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