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□ギブユーマイハート
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―――2月にしては割と暖かい麗らかな昼下がり。キッチンにはチョコの甘い香りとラム酒の匂いが満ち溢れていた。
「お、焼けてる焼けてる」
オーブンの中から取り出したのは、ふくふくと膨らむチョコブラウニー。そこから漂う香ばしい匂いに私は更に気持ちが弾んだ。
初めて作った割には上出来の出来映えに私は満足の笑みを浮かべて焼き上がったばかりのブラウニーをトレーごとテーブルに置き、粗熱を取っている間に出掛ける支度を始めた。
喜んでくれるかな。甘いの大好きだし、きっと喜んでくれるよね。
『うーん///とぉってもスウィートです!』
ふふ///、頭の中にブラウニーを口にした時のエイジの反応を思い浮かべては自然と笑みがこぼれる。
早く会いたい―――!
はやる気持ちを抑えて、お気に入りのニットワンピに着替えて、軽くナチュラルメイクを施すと鏡の中には恋する二十歳の自分がいた。
今日はきっと、世界中の女の子達がこうして鏡の中の自分に酔いしれるんだわ。
そして自分自身に魔法をかけるのよ。
大丈夫、貴女ならきっとうまくいく。
今日の為に、毎日甘いものも我慢して、ダイエットしてきたんじゃない。
キッチンに立った事なんて無い私がお菓子作りの本まで買ってきて、友達に冷やかされながらもエイジの好きそうなお菓子を選んで頑張ったじゃない。
―――それでももしダメだったら?
……なんて、そんなのは後で考えればいい。今は、成功する事を祈って、甘くて、ほろ苦い恋の魔法をかけるの。
適度な大きさに切ったブラウニーを丁寧にラッピングして、ありったけの想いを込める。
「―――よしっ!行くかっ」
気合いを入れて、玄関のドアを開こうとしたその時、
ピンポーン……
呼び鈴の音が鳴り響き、私は出鼻を挫かれた気分で、溜め息をついた。
まったく、せっかく覚悟を決めて踏み出そうとしていたのに…。邪魔をされた事に幸先が不安になりながらも私はドアを開いた。
「どちら様ですかー……」
ドアを少し開くと隙間から突然、ヌッとピンク色の何かが飛び出して私は、きゃっ!?と悲鳴をあげた。
「……え?」
目を凝らして、よーく見るとそれは、ピンク色のガーベラやカーネーションを束ねた小さなブーケだった。
……え、何?てか誰?
ブーケを持つ手に視線を向けると、インクに汚れた……見覚えのある手……
え、えぇ?もしかして―――
「…エイ、ジ…?」
小さく尋ねると、勢いよく開いたドアの向こうから、
「呼ばれて飛び出てズバババァァンでぇす!」
!!、嘘っ!
スウェット姿の見慣れたエイジがシュピーン!とブーケを頭上に掲げていつものイミフなポーズで立っていた。
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