フェアリーテール
□隣の美少年
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個性把握テストも終わり、ようやっとホームルームがやってきた。紡の体力はとっくに限界で、入学初日だというのに相澤の話もあまり入ってこない有様だ。時折、相澤がこちらを睨んでくるので、頑張って持ちこたえている。
「ぅぐう……」
しかし眠い。眠すぎる。
少々、いや大分調子に乗った結果だ。個性使っての体力テストが楽しすぎて、ブレーキがきかなかったのだ。しかも使ったのが神話級のヘラクレス。こうなることは紡自身わかっていたのだが、ついつい、というやつだ。
「…………ぐぅ」
(あ、やば……)
視界がぼんやりとぼやける。意識が遠のくのがわかる。
「…………………………おい」
「…………うぬ……?」
なにか、聞こえたような。
「……おい、寝るな」
隣から聞こえるような。
「……おい」
「ん、む」
重い重い瞼をなんとか押し上げる。隣を見る。赤と白。とりあえず色情報だけ認識した。
(んー、紅白……)
寝ぼけた頭ではそんなしょうもないことしか浮かばなかった。このクラスは一人一人かなり特徴的だが、紡のお隣さんも随分と判別しやすい特徴を持っていた。そして、そう、随分と整った顔が紡を見ていて、彼女は思わず、もうほんと、思わず、
「…………きれいな人だなぁ…」
「っ……!?」
寝ぼけ半分で思ったことそのまま口にした瞬間、ホームルームは終わったようだった。お隣さんである少年は、ものすごく目を見開いてる。切れ長の目が、まるくなるくらいに。
(……あれ、わたし今、なんか恥ずかしいこと言ったかなぁ)
「じゃあね、紡ちゃん」
「またね、語部さん」
「語部くん、また明日……しかし、本当に一人で大丈夫か?」
お茶子に出久、天哉が心配そうに紡の顔をのぞき込む。正直、今にも落ちそうだ。こんな状態で、一人で帰れるのだろうか。
「紡ちゃん、やっぱり家まで一緒に行こうか?」
「だいじょぶだよぉ……いつものことだし、悪いしねぇ……」
口調もふにゃふにゃと間延びしているほどだが、残念ながら、帰り道が逆。具合が悪いならまだしも、眠いだけで送ってもらうのは流石に悪い。それに、調子にのった自分の責任だと紡はやんわり断った。
「わかったけど……家帰れたら、絶対連絡してね」
「ん、わかったぁ」
(お茶子ちゃんにお母さんみたいなこと言われた…)
そんなに危なっかしく見えるだろうか。
「ほんとにほんとに、気をつけてね!」
「わかったよぉ。じゃあねぇ」
早く帰って寝ようと、重たい体を引きずって歩く。しかしまた、歩くのさえだるい。これは、家までかなり長そうだ。日が暮れるまでに帰れれば良いのだが。
(お茶子ちゃんに連絡、忘れないようにしないとな)