フェアリーテール
□焦りは禁物
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正直、後悔している。
「………………」
「紡ちゃん、だいじょぶやて! 轟くんも言ってたじゃん!」
ものすごく、後悔している。
「お茶子ちゃん……」
「?」
「わたしを成層圏までふっとばしてくれないか」
あのソフトボールのごとく。
「だからだいじょぶやて!!」
「だって……だってさぁ!」
思い出すだけで悶絶ものだ。
(なんだあれ、なんだあれ!)
酔っていた、のだろうか。とにかく正気ではなかった。出久と勝己を止めろと言ったくせに、いざ自分となるとオールマイトの静止も無視した。
……いや、それはもういい。それより、何やら恥ずかしいことを言いまくっていた、気がする。いや多分。絶対。
(そうだよ覚えてるよ……!)
挙句の果てに押し倒して、そのまま寝落ちして運ばれたと言う。
『お姫様抱っこステキやった……!』
(うあぁぁあああ……!)
お茶子に言われたあの衝撃は、一生忘れられないと思う。
(夢じゃなかった……!)
いや、夢なら夢で恥ずかしいが。
「……わたし、自分があんなにブレーキきかない人間だって知らなかった…………」
「確かに、あれはびっくりしたかも」
「うう……」
気まずすぎて、今日の昼は逃げるようにお茶子にくっついて行った。焦凍が何か言いたげにこっちを見ていたが、この心境で二人きりになれるほど、図太くはなかった。
「消えたい……」
「だ、大丈夫だよ語部さん」
「いずっくん……」
「そうだぞ語部くん。動けなくなった者を助けた。轟くんは当然のことをしたまでだ。迷惑なんかじゃないぞ!」
「(なんかズレてるけど……)ありがとう、飯田くん」
(そうだ。あんまり、考えるのはよそう)
考えたところで、羞恥が膨らむばかりだ。例え、そう。焦凍が子犬みたいな目で見てきているとしても、今は、考えてはダメだ。
(とりあえず、別の話題を……)
「……あ、そうだ。いずっくん、委員長おめでとう」
「えっ、いきなり!? あ、ありがとうっ」
午前中は委員長、副委員長を決める時間があり、見事委員長になったのは出久だった。副委員長は百。正直、勝己がならなくてよかったと紡は思う。
「ぼ、僕なんかにつとまるかな……」
「ツトマル!」
「うんうん。いずっくんはちゃんと考えて行動するタイプだし、適任だと思うよ」
「そう、かな……」
「そうだとも! 自信を持ちたまえ!」
「みんな、ありがとう……」
照れくさそうにはにかむ彼は、なんとも可愛い。こう見えて激情型な面もあるのだから、人はわからないものだ。でもきっと、彼ならクラスをまとめてくれるだろうと紡は思う。