駄文(小説ver)

□童謡:鬼のパンツ
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あなたも、わたしもというところで
客一人一人に注意を向かせるのは
いいことだし、
「みんな」を強調するのは
日本人の右にならえ体質に
合っているといえる。

だがその「みんな」が
鬼のパンツをはくかどうかっていうのは
「百年はいても破れない」の
一言だけにかかっているわけだ。
あとはひたすら、自社の商品に向かって
凄い凄いと連呼しているだけで。

歌にのせて、小さい子にも
洗脳するように聞かせたり歌わせると
いうのは、画期的なマーケティング方法で
あるからこそ、より
うたい文句のもったいなさが
目立っているように思う。

たしかに百年はいても破れないの部分、
「百年」はインパクトある。
ただし百年パンツをはく人間が
何人いるか、そして
百年破れないパンツはどの層に
どれだけの需要があるか、きちんと
考えた上で歌詞をつけた方が
いいと思う。
うたい文句だけだったら、
「イタリアの有名デザイナーが
デビルをモチーフにした
小悪魔系パンツ、日本初上陸!
限定千枚発売!」の方が
まだ売れると思うのは私だけだろうか。

そして、百年はいても…
が唯一の宣伝文句なのにもかかわらず、
PL法にどう考えても違反していること。
これは非常にまずいと思う。

この替え歌ができた当時から、
(原曲はフニクラ…なんたら)
「百年はいても破れない」を
うたい文句にしてきたが、
それを実証して見せた人間は
果たして何人いるのだろうか。

また、そんな昔のけったいな
パンツを現代で売るのである。
昔のものを「凄いぞ凄いぞ」と
自身を持って売るからには、
当時から相当ハイカラなパンツで
あったことが予想される。

そして、「鬼のパンツ」を信じるとすると。

開国から新政府の誕生へと、
激動の時代のさなか、パンツだけは
激動を乗り越えて近代のものへと
進化していた鬼パンツ派の
人間たちは、
日本人が異国の文化に
浮かれている中でも、冷静に
時代とパンツを見据え、
やがて時代の変化によって
徴兵され戦場に連行されても尚
祖国とパンツを守り抜き、そして
普段の生活では貧困にあえぎ
食べるもの、飲むものも
無くなりながらも、
決してパンツを質に出すような
真似はせず、
はいているパンツのことで
お隣さんから非国民と罵られようが、
鬼パンツ派の人間すべてが
アカだなんだと言われ
憲兵に弾圧されようが、
何があってもその気高さと
力強い意思、命、そしてパンツだけは
失うことなく、終戦し
その混乱の中でも
たくましくパンツと共に生き、
パンツと共に労働に励んだ…
といった風になるはず。

いや、ここまで自分で書いて
なんなんだが、まったくもって
鬼パンツ派の人間は凄い。
軽くサラッと書いたが、きっと
これ以上のドラマが鬼パンツ派の
人間にあったのだろう。
「凄いぞ」「凄いぞ」と
歌詞の中で連呼するのもうなずける。

ただし、やはり鬼パンツ派の人間は
感動的ではあるが、非現実的である。
また例え、この鬼パンツ派の人間が
実在したとしても、それを
百年はいた、と証明できる方法は
残念ながら無い。

つまり、いくら百年はいても
破れない、と声高に宣言しても
それが事実と認められない以上、
PL法違反なのであった。
世知辛い世の中だ。


鬼のパンツは
「アイデアは良いが中身が駄目」の
典型的なマーケティングだったのだった。
これから社会人になる私たちは
これらの問題点を見つめつつ
鬼のパンツを反面教師にし、
勤労に励むことが何よりも大切だ。
なぜなら、鬼のパンツとの対立は
幼児期との対立、決別とも
呼べるからである。
例えるならフロイト心理学の
父親のような位置に我々社会人からする
鬼のパンツがあるのだ。
乗り越えるべき目標、そして
同一化を図るべき対象にも
鬼のパンツはなりうるのである。

つまり我々は鬼のパンツでありながら
鬼のパンツと対立しなければならない
いわゆる、原罪を抱えた人類、
そしてエデンの園を追放された
アダムなのである。
多神教の日本においても、あらゆる
神の救いを受けることのできない、
だがそれでも鬼のパンツとの
同一化を求める幸薄き隣人なのである。
正義とは?悪とは?鬼のパンツとは?
思考すれば思考するほど泥沼にはまり、
抜け出すことはできない。
鬼のパンツに葛藤する社会人は
原罪の重さに耐えることのできない
哀れなアダムの子孫達なのである。

――ヘビがそそのかしたのか、
それともイヴがそそのかしたのか。
そして、アダムはその心を知りながらも
禁断の果実を口に含み、
楽園を追われたのか。

歴史は何も教えてくれない。
あらゆる偉人にだって、失楽園の
本当のストーリーは分からないもので
あるし、ガイアが俺にもっと
輝けと囁いている。
 

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