駄文(小説ver)

□ハルディンの夜
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非常灯は真に迫って光っている。
怠ることなく辺りを警戒する
その姿には、畏怖の念さえ覚える。

しかし、その周りは何を考えているのか
さっぱりわからない。
病室から、ただぼんやりと
口を開けて漏れている光は酷くいい加減で、
これといった覇気が無い。

光達の攻防…いや、非常灯の
独り相撲を眺めて三十分。
…そう、看護婦の姿が見えずに三十分。
………既に経過していたと知り、三十分。

もう、いくら待っただろう。


「寝る前に、お薬飲みに来てくださいね」
私にかけられた、この呪い。

呪いは私をナースステーションの前から
動かさない。手足に樹木の根が
絡みついたような感覚。
恐らくこの呪いは「お薬」を
飲むまで解けないだろう。
…なんと馬鹿げた設定なのだろう。


ただ、呪いはお情けで、
指先だけは解放してくれたようだ。
携帯を、いじれるように。
ありがたい。ありがたや。

しかし看護婦は来ない。


――看護婦はまだか!
という怒声が
どこかから聞こえないものかと
耳を澄ましてもみるが聞こえない。

かすかに…心臓の熱いビートが
「カンゴフ!madaka!」と言っているような
気もしたがそれは不静脈だ。
しかし、私は不静脈ではない。
過去そういった診断を下されたことが
無い上に、毎朝取られる脈でも
特に問題が無いと言われているからだ。

そもそも、不静脈とはどういった
状態なのだろう?心臓のBeatがYeah!
していれば不静脈なのだろうか?
その基準で合っているのなら
きっと私は不静脈なのだろう。

簡単な自己診断を終えたが、もちろん
看護婦は来ない。
私は不静脈なのだ、一刻も早く
来て欲しいのに。


そのとき、張り詰めているはずの
非常灯が、妙に気になった。

さっきまでは畏怖の念しか
感じさせなかった非常灯だが…
なぜか、頼りなげな様子に見えた。
やや、光が弱くなったのかもしれない。
その様子を見て、私は自分の中にある
「それ」と同じものを感じ取った。

お前も俺と同じで、誰かを……
待っているんだな――。
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