memorialブック

□Dream in a Story
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事件は起こる。
いつも通りの日常の中で。
突然に。


…不機嫌すぎ。
そう思い始めてからはや30分。
なぜか気になって、ついその人に目がいってしまう。
そんな自分に違和感しか覚えない。
だから、直接本人に聞いてみることにした。

「ねぇ」

「…」

「ねぇってば」

「んだよバニー。うっせーな。今忙しいんだよ」

こちらを見もせずにそう言ったガジルは、相変わらずギルド内を見渡している。
異様にピリピリとした空気を放ちながら。
その空気に圧されてか、その一帯だけ静かになっている。

「何よその言いぐさ。てかバニーってのそろそろやめなさいよ!しかも忙しいってあんた…そこに突っ立ってるだけじゃない」

反論すると、ガジルはますます迷惑そうに眉を寄せた。
そして、あろうことか耳を塞いだのだった。
その動作にイラつかない人はいないだろう。

「ちょっとぉ〜?ガジルくぅ〜ん?聞いてんのかしらぁ〜?」

額に青筋が浮かびそうになるのを我慢しながら、笑顔で話しかける。
しかし、予想していた反応とは別のものが返ってきた。

「あーもううっせーな…。…本当に忙しいんだよ」

それだけ言うと、あたしを静かに睨んできた。
そこにはなんとも言えない威圧感があった。
結局何も言うことができずに、ただ、歩いていくガジルを見送ることしかできなかった。

「なによ…。せっかく心配してやったのに…」

そう呟いてみても、心の中にあるもやもやは解消されない。
ガジルはまた、別のところでギルド内を見渡し始めた。

しばらくそんなガジルをじっと見ていた。
そのおかげか、あることに気が付く。
ガジルの視線が一点に集中しているのだ。
最初、なんのためかはわからなかったが、ギルド全体を見ているのだろう、ぐらいに思っていた。しかし、きょろきょろしていたのは、その1点がバレないようにするため。
つまり、カモフラージュだったのだと納得して。
その一点を辿っていくと、レビィちゃんに辿り着いた。
途端に笑いがこみ上げてくる。
さっきの素っ気ない態度も、裏の事情を知れば可愛らしく思えてくるものだ。
あたしはニヤニヤと顔が勝手に笑ってしまうのをそのままに、レビィちゃんのところにスキップしながら行った。

「レビィちゃんおはよー!」

「え?あ、うん、ルーちゃんおはよう…?どうしたの?」

「どうもしてないけど…実はガジルがね…」

さっきまでのことを包み隠さず話すと、これまた予想とは違った反応が返ってきた。

「そうなんだ」

…え?それだけ?

「れ、レビィちゃん、ガジルがレビィちゃんのこと好きかもしれないんだよ!?ていうか絶対あれはレビィちゃんのこと好きなんだって!!レビィちゃんはガジルのこと好きなんでしょ?じゃあこの機会に告白すべきよ!」

「そうだね」

…え?

「…あ、そういえばルーちゃん、この本知ってる?」

思い出したように声をあげ、一冊の本を取り出したレビィちゃんに首を傾げる。
あまりにも…突然すぎるというか、わざとらしすぎるというか。
いつもなら顔を赤くして照れるのに、今日の態度は本当に素っ気ない。
さっきのガジルの態度も合わせて考えてみると。
2人は喧嘩でもしたのだろうか。
そう思わずにはいられなかった。

「が、ガジルとなんかあったの?」

「?別に何もないよ?」

きょとんと首を傾けるレビィちゃんは、本当に心当たりがないようだ。
ますます状況がわからない。

「そんなことよりルーちゃん、この本面白いんだよ」

そんなことって…
まぁ…あんまり深くつっこむなってことかな…?

「何の本?」

仕方なく、レビィちゃんの話に合わせる。
今は本よりも2人の関係の方が気になるのだが。
しかし、レビィちゃんはニコニコと笑うばかりで、何も答えてくれない。
さっきからいつもと違う様子のレビィちゃんに戸惑うも、目の前に差し出された本を手に取って眺めてみる。
カバーは赤く、表紙には『Dream in a Story』と白い文字で書いてあった。

「『物語の中で眠れ』…?」

小さく声に出して読んでみる。
意味深な題名に心を惹かれ、好奇心の赴くまま、その本の表紙をめくった。
しかし、驚いたことに、中のページには何も書かれていない。
次のページも、その次のページも。

「レビィちゃん…?」

顔を上げると、さっきと変わらずニコニコと笑いかけてくるレビィちゃんがいた。
目の前にいるのはレビィちゃんなのに、その笑顔を見た途端、背筋が凍った。
何かが違う気がして。
違和感が濃くなる。
というか。

「あんた本当にレビィちゃ…」

「しー…」

途中で言葉が遮られる。
人差し指を口元に当てられれば、黙るしかない。
そのレビィちゃんの姿をした『何か』は、静かに本のページをめくりだした。
あたしはその手の動きを目で追うだけ。
ゆっくりとめくられていくページには、進むにつれ、段々文字と挿し絵のようなものが浮き上がってきた。
それに驚いて目を丸くしていると、突然手が止まる。
そのページには、はっきりと浮き上がった文字と挿し絵があった。
しかし、どちらもかきかけである。
よく見ると、まるで、本の前には人がいて、今、目の前で書かれている文章であるかのように、文字は少しずつ、しかし確実に量を増やしていっている。
最後を見ると、インクが紙に染み込む様子すら現実的である。
挿し絵の方も文字と一緒で、少しずつだが確実に描かれていっている。
しかし、その挿し絵の一番左端を見てみると。
自分でも、一気に血の気が引いたのがわかった。
…そこには傷だらけのレビィちゃんの姿があった。

「レビィちゃん!!」

そう叫んだ途端、もの凄い速さで本のページがひとりでにめくられ、最初のページが開かれた。
真っ暗な穴の中に落ちていくように、その中に吸い込まれていく。
あっという間だった。
真っ暗な中を落ちていく中、声も出せない。
しかし、それでも助けを求めようと上の方を見る。
そこにはレビィちゃんの姿をした『何か』と…あたしの姿をした『何か』がこちらを見ながら笑っていた。
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