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□不気味なこと
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あの仕事からはや数日。
家賃は払えたものの、食費や光熱費にお金をとられて、服などを買う余裕などは全くなかった。
その元凶となった一人と一匹は、もちろん帰ってきてからエルザにお仕置きしてもらったんだけど。
90万の出費を思うと、どうしても許せそうにない。
「わるかったよルーシィー…。機嫌直せって」
「…オイラもごめんね?ルーシィにオイラのお魚あげる!!」
「…」
無視を決め込むあたしの前で、耳を垂れて落ち込むハッピーと、日に日に不機嫌になっていくナツがいた。
この状況が数日、ギルドでもルーシィの部屋でも続いている。
今までより長い喧嘩に呆れたのか、グレイがあたしたちのいるテーブルに近づいてきた。
そしてあたしの隣に座る。
「…姫さん、そろそろ許してやれよ」
あたしだって本当はもう許さなくちゃいけないってわかってる。
ギルドのみんなは、ナツたちが悪いからと言って気を使ってくれてるけど、本当はこの気まずい雰囲気を早くどうにかしてほしいと思ってる。
いつもは騒がしくて楽しいギルドで、みんながそう思うのは当然だ。
頭ではわかっているのに気持ちがついていかないのは、やっぱりカジノと…クリブのことがあったからだろう。
あたしがカジノで当てた70万。
クリブに会ったせいで昔の嫌な記憶が蘇った上に、バカにされ、そいつの護衛をしなければならないという惨めな思い。
それらと報酬を合わせて最後に残ったのは…たったの20万。
考えれば考えるほど、ナツたちが割った壺の90万は、あたしに精神的なダメージを与えてくる。
「…別に怒ってないわよ」
言いたいことは山ほどあるけれど、それをなんとか口から出さないように飲み込む。
代わりに出たのは、皮肉めいた、ぶっきらぼうな言葉だった。
自分でも呆れるほど子供だなと思った。
そんなあたしを見て、グレイはしばらくの沈黙の後、ため息をついた。
なぜか急に涙が溢れそうになった。
しかしその後すぐに、頭に心地のよい重さを感じるようになる。
それがグレイの手だということはすぐにわかった。
グレイがゆっくりと口を開く。
「…お前らしくねぇな。ナツに振り回されるのはいつものことじゃねーか」
「…それナツをフォローしてんの?けなしてんの?」
「そりゃあもちろん…」
「んだとごらぁぁぁー!!」
「まだ何にも言ってねぇよ!!」
いきなり喧嘩をし始めたナツとグレイを見て、無意識に笑いが漏れる。
「…何笑ってんだよ」
ナツがふてくされたように…いや、ふてくされながら言った。
それが妙に可愛くて、なんだか怒っているのがバカバカしくなった。
「…今回のことはグレイに免じて許してあげる」
そう言ってにっこりと笑うと、ナツはなぜかマフラーを上に引き上げた。
「感謝しろよなー。俺のおかげで仲直りできたんだからな」
口角を上げて笑うグレイにナツがかみつく。
「うっせぇ!!年がら年中露出魔!!」
「あぁ!?んだよやんのか?年がら年中裸マフラー野郎!!」
「ミラさーん、あたし今日はもう帰りまーす」
「うん、また明日ね、ルーシィ」
喧嘩している2人を置いて、いかにもご機嫌ですといった足取りで、あたしは家を目指した。