短編集

□日常的愛情思想
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家に帰ってすぐ、澪は部屋の隅で体育座りになった。
膝に額を当てて縮こまり、話しかけて欲しくないという気配を出している。
生憎俺はそんな言う事を素直に聞くタチではないので、澪の隣に腰をおろした。
頭を撫でて抱き寄せてやれば、澪はグスグスと鼻を鳴らして泣いていた。

「大丈夫だから、な?」

俺の言葉に澪は頷くが、涙は止まらない。
女子を泣き止ませるなんてテクニックを持っていない俺は、とにかく澪を抱きしめて背中を叩くくらいしかできなかった。

「ほら、もう泣き止みなよ。涙拭いて、俺に見せてよ、澪の綺麗な瞳」

澪は鼻をすすり、メモ用紙に文字を書く。

『私の目、きれいですか?』

…もしかしたら澪は、今までこの目について何か言われ続けていたのかもしれない。

「綺麗だよ。まるで空みたいで、俺は好き」

『初めていわれました。うれしい』

澪は双眸に涙を溜めながら笑った。
少し無理をしているのかもしれないが、それでも泣き止んでくれただけマシかもしれない。

「ソファ座んなよ、疲れるでしょ」

澪の手を取ってソファに座らせる。
澪はメモ用紙に"少し時間ください"と見せてから何かを長々と綴り始めた。

『私、この目のせいで昔からいじめられてたんです。日本人なのに青いからキモチワルイって。お父さんとお母さんも自分の子どもじゃないみたいって言ってました。私だってこんな目でうまれたくなかったのに。自分の目がキライで、いじめにたえられなくて、逃げだしたんです。行き場もなくて雨に打たれているところをリョーマさんに助けてもらって。あと、声が出ないのはいじめられた時からだから、たぶんそれが関係してるんだと思います』

その文字を読み切った時、澪は少しだけ寂しそうに笑っていた。

『私の目、きれいって言ってくれたのリョーマさんだけなんです。だから、ありがとう。少しだけ自信がもてました』

そんな澪を抱きしめれば、澪は少し戸惑ったように俺の背中に腕を回してきた。
話してくれた。
初めて聞いた、澪の過去。
嬉しかった、けどその内容は腹立たしいものでもあった。
そして同時に理解したものは、他人に対する異常なまでの恐れ。
いままでいじめられて、疎ましがられていたのなら納得は行く。
…そういえば俺にはそんなに警戒心なかったけど。

「…お前の目はこんなにも綺麗なのにね。なんで俺、もっと早く澪に出会えなかったんだろ。もしかしたら、俺なら守れたかもしれないのに」

澪はぎゅう、と抱きついて来る。
まるでそれは自分もそうだと澪が言ってくれてるみたいで嬉しくて。

…俺は、俺だけは、絶対に澪の味方でいるって決めた。

「ねぇ、澪。真剣な話だからよく聞いて」

そっと身体を離していえば、澪の表情は僅かに強張って。
そんな澪の前髪を払いのけ、そっと額にキスを落とした。

「好き。俺、澪が好き」

澪は目を瞬かせ、そして顔を真っ赤にした。
パクパクと金魚のように口を開閉させ、澪はメモ用紙を手に取った。

『私は声もでないしリョーマさんに何もできないよ』

「別にいいじゃん、俺は澪が一緒にいてくれればいいんだから」

『ホントにホント?私でいいの?』

「澪がいいんだよ」

澪は恥ずかしそうにメモ用紙を差し出してきた。

『よろしくおねがいします』

…可愛い。
澪はじっと俺を見たあと、こてんと頭を俺の肩に乗せてきた。
これはつまり、俺の告白は受け入れられたということだろう。
やっと手に入れた、絶対に離したくない存在。

ああ、やっぱり俺は相当の重症患者だ。



日常的愛情思想



("ぎゅーってしていいですか?")

(別に良いけど…ってか敬語やめない?)

("わかった!じゃあやめるね")

((メモ用紙見せながら抱きついて来るとか何こいつ可愛すぎるんだけどどうしよう))
((………持つかな、俺の理性))
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