短編集
□電波少女(仮)と王子様。
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一人の少女が、屋上に座っていた。
特に何をするわけでもなく、ただ座って空をボーッと見上げている。
その瞳は、焦点があっていないようで、視点が定まっていない。
少女───葉桜澪は、ふ、と我に返ったように焦点を合わせた。
「……」
ポケットから、少し融けかけた飴を取り出し、包装紙をまくって口の中に放り込んだ。
瞬間ひろがる、いちごの甘い風味。
しばらくコロコロと口の中で転がし、再び空を見上げた。
「……何やってんの?」
そんな澪に唐突に影ができ、端整な顔立ちの少年が顔を覗かせた。
「…越前君」
澪は焦点を合わせて少年の顔を認識すると、その苗字をポツリと呟いた。
越前、と呼ばれた少年は澪から顔を離し、隣に腰を下ろした。
「…空をね、見てたんだよ」
先ほどの質問に対する応えだろう、澪が言う。
「俺には何もうつってないように見えたけど?」
「…焦点はずらしてたから。でも、その方が淡くてキレイでしょ?」
「変わってる」
「よく言われるわ」
澪は、電波少女というレッテルを貼られている。
本人は否定するわけでも、肯定するわけでもないためうやむやになっているが。
「楽しい?そんな事して」
「さぁ。特に意味はないから。…そういう越前君は、どうしたの。今は授業中だけど」
「それ、アンタにそっくりそのまま返すよ」
今は授業中だ。
だから屋上には誰もいないし、休み時間特有の騒音も聞こえない。
「ま、別にいいんだけどさ」
「そう」
越前は自分の腕をまくらにして、寝転がる。
「………」
「………」
訪れたのは沈黙で、二人はただ黙って空を見上げた。
「…葉桜はさ、キチガイ扱いされて平気なわけ?」
沈黙を破ったのは越前。
「別に…言いたい奴に言わせておけばいいのよ。人間は、誰かを見下さなければ生きていけない愚かな生物だから」
「ふーん…見下す、ね」
「そうでしょう?まぁ、中には人間は平等である、なんていう偽善者もいるけれど。…偽善者の方が、よっぽど愚かだわ」
「全員が全員そうだとは限らないと思うけど」
「そう?人を見下したとして見下しているだなんて気づかないものだけど。心では思ってるのよ、自分が誰よりも可愛いってね」
越前は無言のまま体を起した。
「例えば…誰かが叱られたとする。それを見ている周りの人間は、心では"自分が叱られなくてよかった"って思ってるのよ。それってイコール見下してるってことだと思うけど?」
「…葉桜ってさ、よく喋るんだ?」
越前があぐらをかき、膝の上で頬杖をつきながら言った。
「あら、私だって人間だもの。お喋りくらいするわよ。いけないかしら」
「別にそーゆー意味じゃないけどさ」
「意外って事?」
「そうとも言うね」
「そうとしか言わないわ」
澪が口の中にある飴をガリッとかんだ。
越前はそれを横目で見る。
「ソレを言うなら、貴方だって充分意外よ。強豪青春学園男子テニス部で1年生にしてレギュラー、帰国子女の天才王子様って言われる貴方が授業をサボりだなんてね。しかも、英語じゃなくって数学を」
澪と越前は、互いを認識はしているが会話をしたことのなかったクラスメイトだ。
「めんどいんだよね。数学とか…。そーゆー葉桜だって優等生がサボって飴なめて…」
澪は電波少女であるにせよ、授業は真面目に聞き教師の手伝いも率先してやるという優等生でもあった。
「優等生だからよ。体調が悪いからって言えばすぐに騙される。保健室に連絡すらいれてないわよ、きっと」
「ふーん…」
「少なくとも、無許可で授業を抜け出すよりは断然いいと思うわ」
「はいはい、俺へのあてつけかよ」
少々ふてくされた越前を見て、澪は小さく口元を緩めた。
「へぇ…そんな顔もできるんだ?」
「私だって鉄仮面じゃないわよ。失礼ね」
「笑ってたほうがいんじゃないの?」
「面白くもないのに笑えないわ」
「今の、面白い要素あった?」
「まぁね」
「アンタって…やっぱ、変わってる」
そういった越前の声色は柔らかく、表情も緩んでいた。
澪もまた、先ほど以上の微笑みを浮かべる。
「貴方も充分…変わってる」
澪がそういった瞬間、柔らかな風が二人を包んだ。
電波少女(仮)と王子様。
(また、話してもいい?)
(王子様にそう言っていただけて光栄ね。いつでもどうぞ)
(それ、やめてくんない)
○アトガキ○
初・テニプリ短編です!
書いててよくわかんなくなった…。
しかも、あんまり電波少女じゃない。
だから電波少女(仮)です。表記間違いじゃありません(笑)
人を見下す云々は、別に管理人が思ってる事ではありませんので!
ちょっと変わった子を追求した結果こうなりましたテヘペロ←
普通中学生がサボれるわけないだろっ!
っていうツッコミはなしの方向でお願いします。