短編集
□好みのタイプ
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最近、周りの女子のポニーテール率が高くなってきた。
そういう私もポニーテールだが…これは昔からなので、勘定にいれないでもらいたい。
私の友人も、最近ポニーテールに髪型を変えた。
そこそこの髪の長さを持った子の9割がたと同じ髪型なので、少し違和感を感じる。
そして、女子達がポニーテールに変えた理由───それは、今私の髪をいじっているコイツの好みのタイプだから、らしい。
しかも想い人もいるらしく、ポニテが似合う女子だとか。
名前は、越前リョーマ。
1年生にして強豪(らしい)男子テニス部のレギュラー。
帰国子女で英語はペラペラ、他の教科の成績もよく、テストでは常に上位。
更に言えば眉目秀麗で端整な顔立ちをしている。
そう、稀にいる完璧人間という奴だ。
そのルックスや成績、テニスの試合等でファンになった子たちからの告白は絶えないらしく、モテモテでもある。
語弊があるかもしれないので念のために言おう。
私とコイツはただのクラスメイトだ。
ただ、幼い頃からテニスをやってきたという共通点があり、テニス関係の会話をするうちに、まぁ、他の女子よりは仲良くなったと思う。
で、だ。
コイツは一部の女子に"王子様"だなんて騒がれているわけだが…似合わない。
コレが王子様なら、この世の男子全てが王子様だ(性格的な意味で)。
もちろん、コイツの容姿がいいのは私も認めるが。
男子にしては長く綺麗な指が私の髪をすくい、手ぐしを入れる。
なぜかわからないが、私の髪の毛はコイツの玩具になっているらしい。
曰く、「髪がサラサラして気持ち良いから」らしい。
私はコイツの為に髪を手入れしているわけではない。
「澪、髪のびた?」
髪をいじりながらリョーマが言った。
コイツが私の名前を呼び捨てで呼ぶから、私も呼び捨てで呼んでいるだけ。
決して甘い関係とかではない、勘違いしないでくれ、そこで羨ましそうに見ているクラスメイトA。
「さぁね。自分の髪の長さなんて把握してないし」
「そ?…ま、それもそうか。たぶん5センチくらいのびてるよ」
なんでアンタが私の髪の長さを把握しているんだ。
「…澪の髪って綺麗だよね」
他の女子ならここで顔を真っ赤に染め上げるところだろう。
私は慣れた。初めて言われても何も感じなかったけど。
「あっそ」
「俺、澪の髪好きだよ」
「そう。それで?」
「別に。そんだけ」
そのまま、特に会話することもなく髪の毛をいじられるがままになる。
「…澪、髪型変えないんだ?」
「なんで変えなきゃダメなのよ」
「知ってんでしょ?俺のタイプ」
「あぁ…ポニテの似合う子って噂のアレ?事実なんだ」
「まぁ」
意外、とは思ったけどね。
好みのタイプ=テニス強い女子かと思ってたし。
「で、なんで変えなきゃダメなわけ?」
「嫌がるかと思って」
「アンタ如きのために私のトレードマーク変えてたまるかっての。第一、私ポニテしか似合わないから」
「自分で言う?それ」
「私だからね」
私はこれでもルックスは良いほうだと自負している。
スタイルは平均だし、顔立ちもまぁ平均よりは上。
告白だって何回もされてるし…。
「ま、たしかにそうかもね」
髪をいじるのをやめて、私の前の席に向かい合わせに座った。
「そりゃどーも」
「ちょっとは喜べば?」
つまらなさそうに、頬杖をつきながら言う。
「アンタに言われても嬉しくない」
「ふーん。俺、澪に意識されてないんだ?」
「なんでアンタを意識すんの。…まぁ、テニスプレイは対抗心あるし意識してるけど」
「そーゆー意味じゃなくって…」
リョーマが溜息をつく。
「じゃ、どーゆー意味さ」
私もまた、頬杖をついて聞いた。
「……俺の好きな奴って、澪だからさ」
ガクン、と頬杖をついていた手から顔を滑らせてしまった。
「…ジョーダンきついわ」
「真面目だし」
リョーマは頬杖をやめて、机の上に両腕を組むように置いて、その上に顔をのせた。
「ムードの欠片もないわね」
「アンタにムードなんていらないでしょ」
「…しね」
「嫌」
ポツリ、と呟いた言葉を即答で断るリョーマ。
ま、喜ぶ奴なんていないだろうけど。
「で、返事は聞かせてもらえないわけ?」
「………なんて返事すんのよ」
「俺と付き合って」
「…ホント、ムードの欠片のない奴」
「返事は?」
少しだけ、不安そうな表情で私を見つめてくる。
こんな表情もできるのか…。
「…しょーがないから、付き合ってあげる。せーぜー退屈させないでよね」
「……上等じゃん」
安心したように息を漏らした後、ニヤリと笑ってそういった。
ま、私もリョーマは好みのタイプだったんだけどね…。
好みのタイプ
(これって恋人同士なわけ?)
(とーぜんでしょ。何をいまさら)
(いや…告白してくれたの、断らなきゃなぁと)
(は?聞いてないんだけど)
(言ってないもん)
(…今度から、隠し事しないでよね)