短編集
□すれ違いの修正
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私には、それはそれはモテモテな幼馴染がいる。
正直、腹立たしい事この上ない。
なぜかって?私が、生意気な幼馴染を好きだから。
ずっと昔からアイツだけを見てきた、私の大好きな人。
好きだけど、その気持ちが伝えられないのがもどかしくて仕方ない。
───「俺、しょうらい澪とけっこんする!」
───「わたしもリョーマとけっこんするー!」
そう言いあっていた日々が懐かしい。
願わくば、昔のように戻りたい…。
ねぇ、リョーマ。覚えてる?私は、今でもずっと覚えてるよ。
私とリョーマはクラスは同じ。
だけど、席は離れているし用もないのに話しかけられなくて。
いつも、遠目に見てるだけしかできない。
男子にも女子にも囲まれて、鬱陶しそうだけど話の受け答えはして。
ちょっと前までは私がテニスコートの傍にいないと嫌だって言ってくれてたくせに、今は一切言わないし。
私がコートに見にいった時だって私の事一瞬も見なかったよね。
これじゃあ、何のために日本に来たのかわからないじゃない。
リョーマが言ったんだよ?
一緒に日本に来て、って。
リョーマが言ったんだよ?
お前がいないと調子でないから、って。
なのに、一体なんなの?
私がいようがいまいが、何も変わらないじゃない。
調子がでない?冗談でしょ。
何のために私を日本に連れてきたの?
私に虚無感を与えたかったの?
虚しさを与えたかったの?
ねぇ、リョーマ。
アンタは一体、何がしたいの?
「葉桜さん!あたし達、これからリョーマ君の応援に行こうと思うんだけど…一緒に行かない?」
ある日の放課後、クラスメイトの子に言われた。
「…なんで私があんな奴の為に」
「リョーマ君、よく葉桜さんの話してるから、リョーマ君も応援に来てもらいたいんじゃないかなーって」
アイツが私の話?
有り得ないから、それ。
「悪いけど、私今日用事あるから」
行く気なんてないけどね。
「そっか…残念」
残念って言ってる割には顔がにやけてるけど?
「ばいばーい。リョーマ君には伝えとくから」
「余計なお世話。ほっといて」
そういえば、クラスメイト達は眉をひそめる。
そんなクラスメイト達を放置して、鞄を持って教室を出た。
後ろからクラスメイト達の不満の声が聞こえるが、知ったこっちゃない。
「…どいつもこいつも」
私の神経逆撫でして、そんなに楽しいか。
乱暴にローファーを取り出して履き替え、苛立ちながら家に帰った。
「ただいま」
「お帰り。…随分苛立ってるわね、どうかした?」
「別に」
「そう?…あ、今日のお夕飯、倫子ちゃん達の家で食べることになったから」
階段にかけていた足を思わず止めた。
「…私、いかないから」
「え、ちょっと…」
文句を言われる前に、部屋に飛び込んだ。
制服のままベッドにダイブする。
なんでこんな時にアイツと顔合わせなきゃダメなわけ。嫌よ、絶対。
寝返りをうっているうちに、意識がまどろんでいった。
*****
「…、…澪!」
「…っん」
肩を揺さぶられて、目が覚めた。
重たいまぶたをゆっくりと開ける。
「…何、どうかした…?」
「澪、まだ寝ぼけてんの?」
呆れたような声色のハスキーボイスで、覚醒した。
それは、会いたくなかったアイツのもので。
「…なんでアンタがここにいんのよ。さっさとでてけ」
「おばさんに言われてわざわざ起しにきてやったんじゃん」
「そんなのほっといてよ」
「俺が後で怒られんじゃん」
肩をすくめるアイツ。
「起きなかったって言えばいいでしょ。そんな事も思い浮かばないわけ?バカじゃないの」
「…何キレてんだよ」
「うっさいなぁ、さっさとでてけって言ってんじゃん!」
近くにあった枕を投げつける。
あ、やりすぎた。
「…どうしたわけ?当たるなんて珍しい」
顔面に直撃した枕をどかしながら、それでも優しい声色で聞いてくる。
「…っさい、わかったような口きくなっ」
「わかってる。澪の事は、何でもわかってる」
「バカ言わないで。わかってるならさっさと出てって。それが一番の願いよ」
ベッドに寝転んで、布団を頭まで被る。
「…わかってる。澪が傷ついてることも、悩んでることも、苛立ってる原因も」
「……」
「全部、俺のせいだよ。そんなの、わかってるんだ」
「……」
「俺の為に日本に来てくれたのに、俺のせいで傷ついてる。…俺、サイテーじゃん」
ジワリ、と視界が滲んできた。
「…許してもらおうなんて思ってないから。…これだけわかって」
「……」
「昔の約束、俺は今でも有効だと思ってる。…ずっと、好きなんだよ」
その瞬間、私はベッドから起き上がってリョーマに抱きついた。
「……バカじゃないのっ」
「…俺、バカだから。澪を傷つけない方法、知らないんだよ…」
「ホント大馬鹿者だよ、アンタは!…そこまでわかってんなら、私の気持ちくらい気づけバカっ」
「…澪」
「好きだよ、バカ…。気持ちわかるなら、理解しろよ…っ」
突然、ぐい、と顔をあげさせられた。
されたのは、熔けるように甘く深い口付。
「…ずっと、好きだった。俺、澪がいないと調子でないんだよね。だから、ずっと傍にいてよ」
「…アンタが私を好きになる前に、私がアンタの事好きだったっての」
「…生意気」
「アンタに言われたくない」
「…家、いこ」
「…ん」
滲んでいた涙を、リョーマの長い指が拭ってくれた。
すれ違いの修正
(つーか、顔痛かったんだけど)
(…ゴメン、やりすぎた)
(キスしてくれたら許すけど)
(……冗談でしょ?)