短編集

□愛の結晶。
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「おめでとうございます、二ヶ月ですよ」

「…はぁ」

最近、少しからだの調子が悪かった。
私の旦那であるリョーマがそれに気づかないわけもなく、今日、病院に行くように言われた。
検査を受けて、少しして呼ばれ、ニコニコ顔の先生に言われたのが先程の言葉。

正直実感が湧かないし、反応も悪かったと思う。

その後、先生に注意事項というものを聞いてエコー写真とやらを貰って家に帰った。




リョーマはプロのテニスプレイヤーだ。
家には毎日帰ってきてくれるけど、夜遅かったり朝早くに出かけたりと、あまり一緒に過ごす時間はない。
今日は出かけるのは遅かったから話が出来たけど、帰りは何時になるのかわからない。

…妊娠、か。

リョーマ、どんな反応するだろ。

喜んでくれるだろうか。
驚くだろうか。

少し楽しみになりながら家に帰ると、なぜかリョーマの靴があった。

「ただいま…」

「澪!?」

不思議に思いつつリビングに入ると、リョーマが心配そうな表情でソファから立ち上がった。

「な、何?ってか、今日練習あったんじゃ…」

「…澪が心配すぎて、集中できなかったから早めに帰ってきた。どうだった…?」

「ん…とりあえず、座って?お茶淹れるから」

「…澪、……」

少し不満そうに、渋々ソファに腰を下ろすリョーマ。
キッチンでお茶を淹れて、リョーマの隣に腰を下ろす。
そして、手を握った。

「あのね、二ヶ月だって」

そのままリョーマの掌を私のお腹に当てる。

「…え」

「ここにね、私とリョーマの赤ちゃんがいるんだって。だから調子悪かったみたい」

「………そっか」

それだけ?
リョーマの顔を見れば、リョーマはとても優しく微笑んでいた。
ああ…この笑みは、3回目だ。
1回目は、プロポーズしてくれたとき。
2回目は、結婚式で。
滅多に見られない、貴重な微笑み。

リョーマの手がお腹から離れて、そっと私の背中に回った。
ぎゅ、と抱きしめられる。

「リョー、マ…」

「不安なんでしょ?怖いんでしょ?自信、ないんでしょ?」

ポンポン、と幼子をあやすように背中を叩くリョーマ。

「…んで、わかっちゃうかな」

「何年アンタの事見てきたと思ってるわけ?」

「…そだね」

リョーマの胸元の服を握り、リョーマに身体を預ける。

私は、不安だ。
私は、怖い。
私は、自信がない。
この子を産めるのか。
この子を育てられるのか。
この子に愛情を注いであげられるのか。

「不安なら、俺がその不安を消してあげる。怖いんなら、怖くなくなるまで傍にいてあげる。自信ないなら、俺が自信つけさせてあげる。
…悩めば良いじゃん。俺の愛してる澪は、その程度じゃ挫けない奴だよ」

全て見透かされているようで、思わず自嘲気味な笑みが漏れた。

「ありがと、リョーマ。私も愛してる」

「ん」

リョーマの背中を叩くリズムは変わらなくて、安心して。
不安も、恐怖も、自信のなさも、どうでもよくなるくらいに温かくて。

視覚から、聴覚から、嗅覚から、感覚から、リョーマで満たされる。

「…落ち着いた?」

「うん…。ねぇ、リョーマ」

「何?」

その声色は、とても柔らかいもので。

「この子、絶対一緒に育てようね」

「…とーぜんでしょ」

耳元で、嬉しそうなリョーマの声が聞こえて、くすぐったくなった。




愛の結晶。



(ねぇ、名前何にする?)

(気、早すぎでしょ。性別もわからないのに)

(両方の名前考えればいいよ!ね?)

(…ま、それでもいいけどね)
 

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