短編集

□負けません!
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※竜崎桜乃&小坂田朋香悪役です








私の彼氏は、とにかくすごい。
何がすごいって、強豪って言われるテニス部に1年生にしてレギュラー入りしちゃうくらいだし、格好いいし、優しいし、唯我独尊っていうかちょっと生意気だけどでも内面にはあついものをもってて。

まあ、何が言いたいかと言うと、私は彼──越前リョーマにベタ惚れということだ。

付き合って既に数ヶ月。

私は彼をリョーマと呼び、リョーマは私を澪と呼んでくれる。

リョーマは2組。私は1組。
リョーマはテニス部。私は美術部。
リョーマは英語が得意。私は国語が得意。

何一つ正反対で、唯一同じなのは図書委員という委員会だけ。
私とリョーマが図書委員だからこそリョーマに出会えたんだと思う。

でも。

私とリョーマが付き合っているのをよく思っていない人は多い。

リョーマには100人以上のファンがいて、モテモテなのだ。

特に───同じクラスの竜崎さんと小坂田さんには、よく思われていないみたい。

竜崎さんは、リョーマと同じテニス部で。
男子テニス部顧問のお孫さん。
小坂田さんは竜崎さんの友人で、2人ともリョーマに好意を寄せている。

リョーマは興味ないっていってたけど。

竜崎さんと小坂田さんが話している最中でも、リョーマは私を見つければ走り寄ってきて抱きついてくる。
小坂田さんは私を睨み、竜崎さんは悲しそうな顔をする。

私とリョーマが付き合って、傷ついている人が多いことくらい知ってる。

でも、それでも、私はリョーマが大好きだから。
リョーマの恋人ってポジションは譲る気はない。

リョーマのご両親にも認められてるしね。

だけど、1組の皆は竜崎さんの味方だ。

勉強も部活も頑張ってる竜崎さんの方が、リョーマに似合ってるんだって言われたことがある。

私だって頑張ってるのに。

リョーマは気にしなくていいって言ってくれた。
真っすぐ私を見据えて、「俺だけを信じて」なんて言われたら信じるしかない。

リョーマは私を好きでいてくれてる。じゃあ、それでいいよね。

私達は両想いだから。
愛し合ってるんだから。

だから──陰険ないじめなんて、気にならないんだよ。



掃除当番押し付けられて。
荷物運びは全部やらされて。
授業中は私ばかりが当てられるようにされて。
机の中にはテープで固定された針が仕込まれていて。
カッターの刃が入れられた手紙が毎日毎日机の上においてあって。


1組に私の味方はいない。

女子は皆竜崎さんの味方。
男子は皆、見てみぬフリ。

でも先生にバレるような事はしてなくて。
担任だってリョーマだって、いじめの事は何一つ知らない。

教える気も、ないけど。

「澪、早くしてよね」

「もー、リョーマ待ってよ!」

だからリョーマが迎えに来てくれて、その時間だけは一緒にいられるお昼休みは好き。
お弁当を片手にリョーマが来てくれて。急かすけど、絶対私を置いていったりしないんだ。

「あ、そーだ…今日さ、家誰もいないんだよね。家来てよ」

教室で、リョーマが言う。
その言葉が聞こえているのだろう、後ろからひしひしと視線を感じる。

「ふふ、もちろん!倫子さんも南次郎さんも菜々子さんもいないんだよね?じゃあカルピンと3人かー、楽しみ」

「俺も」

竜崎さん達に聞こえるように、わざとそう言う。
性格悪いって?
それくらい知ってるよ。

「いこ」

リョーマが微笑んで手を差し出してくれた。
こんな笑みを見せるのは私の前だけ。
私はリョーマを独占してるんだ、なんて。

「うん!」

差し出された手を握り返そうとした。

けど。

「っリョーマ様!」

私とリョーマの間に、小坂田さんが割り込んできた。

「きゃっ」

ついでに押され、尻餅をつく。

「澪!」

リョーマは小坂田さんを一瞥もせずに、私を心配そうに覗き込んでくれた。

「大丈夫?机で打ったりとか、してない?」

「っぅ…背中打った…」

背中を打ったらしく、ズキズキと痛んだ。
リョーマは私を慰めるかのように頭を撫で、小坂田さんを睨む。

「どーゆーつもり…?」

私からは見えないけど、小坂田さんが怯えてるあたりたぶん怖い顔をしてるんだと思う。

「っリョーマ様!な、なんでその女なんですか!?リョーマ様には、もっと相応しい人が」

「黙れよ」

小坂田さんの言葉を遮ったリョーマの声は、聞いたことがないほどに低い声だった。

「…俺が誰と付き合おうが、アンタに関係ないでしょ。相応しい?アンタに決められたくないね。俺は好きだから澪といるんだ」

「リョー、…」

「アンタって本当自分勝手」

リョーマは少し乱暴に私の手を掴み、起き上がらせる。
そのまま抱きしめられた。

「俺が好きなのは澪だけだ、アンタに文句言われる筋合いはない。そんなに俺らの事が気に食わないんなら、俺らの事無視すりゃいいだけだろ?わざわざ話しかけてくんなよ」

それは、拒絶。
小坂田さんはきっとリョーマの事が好きで。
だから、リョーマが好きな私の事が嫌いで。

「行くよ」

リョーマに手を引っ張られ、教室を出た。

向かうのは、私達がよく行く屋上。
屋上についた途端、リョーマは大きく息を吐いて私を抱きしめた。

「何アイツ、ムカツク…」

ぎゅう、と少し苦しいほどに抱きしめられ。
私もリョーマの背中に腕を回した。

「澪……」

リョーマが私を求めてくれる。
それが嬉しくて、リョーマの肩に顔を埋めながら小さく笑みを浮かべた。

少ししてから、リョーマは照れくさそうに頬を人差し指で掻いて私から離れた。

「飯、食お」

「ん、そだね」

屋上の給水塔の影になる位置に座り、お弁当を広げてつつく。
リョーマのお弁当の、倫子さん作の美味しそうなお弁当を貰ったり。
私の作った、特別美味しくも不味くもないおかずをリョーマが食べたり。

「旨い」

お世辞かもしれないけど、リョーマに褒めてもらえたのは嬉しくて。

「ありがと!」

リョーマの好きな、和食は美味しく作れるようにしたいな。

お弁当を食べて、寝転がった。
リョーマが腕枕をしてくれて、空を見上げる。

「良い天気だねー」

「そうだね」

「あの雲、猫みたい」

「そ?…じゃ、アレはプードル?」

青い空に浮ぶ白い雲を指差し、あんな形があるーなんて話をして。

「…澪、澪はちゃんと俺を信じてくれてるでしょ?」

「うん。リョーマを信じてる」

「ん、ならいいよ」

リョーマはそういって私の方を向いて微笑んだ。

「次の授業、サボろうよ」

「ん、いいよ」

ホントは授業なんてサボっちゃダメだけど…私はクラスで過ごすよりもリョーマと過ごしたい。

結局、その日は午後の授業を全てサボって寝ていたのは言うまでもない。








「──で、──かり」

「──ちゃん、──しない?」

「──も、どうやって──」

放課後。
美術部の活動として校内スケッチをするために廊下を歩いていたら、教室から女の子の声が聞こえた。
どこか聞いた事のある声。

でも、なんだか嫌な予感がして教室の前から走って逃げた。

足音が聞こえたのか、後ろで教室のドアが開く音がした。

「っ」

やだ。
やだやだやだやだやだやだやだやだ。

リョーマ。
リョーマに会いたい。
会って、不安だって話して、そしたらリョーマは笑って私を抱きしめてくれる。

『大丈夫だって。俺がついてるから』

そういって、私が落ち着くまで傍にいてくれる。

でも。

下駄箱でローファーに履き替えようとした途端に腕を掴まれた。

「っな!」

私の腕を掴んだ手を振り払って後ろを向けば、そこにいたのは竜崎さんと小坂田さん。

「アンタ、聞いたの」

「な、にを…」

唇が乾いて、喉がからからで、声がかすれた。

「聞いたんでしょ。いいよ、解ってる。だから逃げたんでしょ?」

誤解だ。声は聞こえたけど話は聞いていない。
首を振っても信じてくれなくて。

髪をつかまれて、廊下にこかされた。

「った…」

「ま、別にいいんだけどね?聞かれてもやるし」

「朋ちゃん、おしゃべりはそれくらいにしよ?リョーマ君に見つかるわけにもいかないし」

「それもそうね」

竜崎さんと小坂田さんはニヤリとした笑みを浮かべた。
そして、私の髪を掴んで起き上がらせる。

「葉桜さん、大人しくついてきてね?ホラ、痛い目に遭いたくないでしょ?」

クスクスと笑いながら、竜崎さんが言った。
ゾク、と背筋が粟立つ。
腕を痛いくらいに掴まれて引っ張られ、体育館近くにある倉庫につれてこられた。
ドン、と突き飛ばされて床に転がされる。

「ばいばーい」

「リョーマ君には伝えておくね?安心して」

竜崎さんと小坂田さんは楽しそうに言い、倉庫のドアを閉めた。
途端に光がなくなり、真っ暗になる。
ドアを開けようにも鍵がかかっていて。

「どうしよ…っ」

携帯は鞄の中だ。
鞄は美術室に置きっぱなし。

周りには人はいないだろうし、ドンドンと扉を叩いても誰も来てくれない。

暗いし寒いし怖い。

「…マ。リョーマ…っ!リョーマぁっ!!」

助けて。
助けて助けて助けて助けて。

リョーマ…っ!!



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