短編集
□デート日和
1ページ/1ページ
疲れた。
本当に疲れた。
何に疲れたって、先輩達が無駄に絡んでくるから。
なんだよ「バアさんの孫と付き合ってんのか〜?」って。
オバさんの孫って事は竜崎でしょ?なんでそーなんの。
桃先輩だけじゃなくって菊丸先輩とか不二先輩とか乾先輩とか、口には出してないけど大石先輩も河村先輩も手塚先輩も海堂先輩も何気に面白がってたでしょ、絶対。
面倒臭い。
なんでそんな事になってんの。
俺にはちゃんと、可愛い彼女がいるってのにさ?
───葉桜澪。
俺の幼馴染で、俺が一番好きな奴。
澪の母親はアメリカ人。つまりハーフだ。
日本人離れした容姿の澪は、彼氏の贔屓目なしに見ても可愛い。
小学生の時とか随分告白されてたしね。
全員俺が蹴散らしたけど。
だって俺、澪の事誰よりも好きだし。
だからさ、澪以外の女と付き合ってるなんて思われても嬉しくないんだよね。
澪は過保護な両親が心配したから、共学じゃなくて女子校に通っている。
家は隣同士で、いつでも会いにいける距離。
「…なぁ、見たか?アレって××校の生徒だよな〜」
「見た見た、だいぶ可愛いよな。誰か待ち?」
「つーかアレって外人だろ?」
ギャーギャーうるさい先輩らを撒いて校門に向かってる途中、すれ違った奴が話してた。
××校、それは澪が通ってる中学だ。
今日は部活がないから、澪と放課後デートの約束をしてる。
きっと澪だ。
外人みたいな可愛い容姿って澪しかいないと思うんだよね。
校門に足早に向かう。
少し人だかりが出来ていて──隙間から見えたのは、やっぱり澪だった。
ここは澪が外人って事にしといたほうがいいかな。
「【──澪!】」
俺が名前を呼べば、澪だけじゃなくて人だかりも一斉に俺の方を向く。
「【リョーマ!何、今日は英語で話すの?】」
「【そ。日本語で話したら色々面倒でしょ?】」
首を傾げる澪に近づき、俺より少し背の低い澪の頭を撫でる。
「【うん!リョーマが言うなら…】」
澪は気持ち良さそうに目を瞑り、言った。
やっぱ可愛い。猫みたいだよね、澪って。
「【じゃ、行こうか。どこ行くか決めた?】」
手を差し出せば、澪は当然のように俺の腕と自分の腕をスルリと絡ませてきた。
「え、ええええ越前ん──!?」
急に桃先輩の声が聞こえた。
…鬱陶しいな、無視しようか。
「【さ、行くよ】」
「【う、うん…でも、呼んでるよ?】」
「【何?澪は俺に先輩ん所いって欲しいんだ?デートしなくていいんだ】」
「【それはヤダっ!】」
澪はいやいやと首を振って腕にぎゅうっと抱きついてきた。
…胸、当たってるんだけど。
ま、今更か。
「ちょ、ちょちょちょっと待てぇい!」
ザ、と俺らの前に回りこんできたのは菊丸先輩と桃先輩。
面倒臭くなって後ろを向けば、後ろにも先輩達。
…囲まれた。
「【…リョーマ、この人達って?】」
「【…部活の先輩。質問攻めにあうと思うから日本語喋らないほうがいいよ】」
いくら英語が得意そうな部長とか乾先輩がいても、俺らはアメリカでも結構早いほうだったしわかんないハズ。
桃先輩と菊丸先輩なんて目を白黒させてるし。
「…何なんスか?見て分かると思うけど、俺ら今からデートなんスけど」
「で、デートっておま…バアさんの孫は!?」
「【…孫?】」
ちょっと桃先輩変な事言わないでよ、澪って結構嫉妬深いんだから。
「【ただの同級生…先輩らが勝手に勘違いしてるだけ】」
「【ふーん?】」
あーあ、キレかけてんじゃん。
しょうがないなぁ…。
澪の顎を掴んで持ち上げてから、澪の唇を塞いだ。
…俺の口で。
そっと離れれば澪は僅かに頬を染めながら俺を見つめて微笑む。
「【信じてくれた?】」
「【うんっ。だって…】」
澪は言葉を区切り、後ろを向いた。
「?」
何かと思い振り返った先にいたのは、唖然としている竜崎と小坂田。
「【あの子達のどっちかでしょ?そのお孫さんっていうのは。…その人の前でちゅーしてくれたから許す】」
いたのすら気づかなかったんだけど。
ま、澪に堂々とキスできたからいいけどね。
「【あたり前じゃん。別に、何回でもキスしてあげるけど?】」
「【リョーマって本当にキス魔だよね】」
「【語弊を招くような言い方止めてくれない。俺がキスするのは澪にだけだっての】」
澪に対してならキス魔にだろうが抱きつき魔にだろうがなれるけどね。
「じ、じゃあ、何か…?俺らの、勘違い?」
「最初っから言ってたんスけど」
グイ、と澪を抱き寄せる。
そのまま白い滑らかな肌にキスを落として、桃先輩達の方をむく。
「コレが俺の彼女。コイツ以外の女なんて見るわけないでしょ。…じゃ、俺らこの後デートなんで。いくよ」
「【はーい】」
澪は笑って、再び俺の腕に抱きついてきた。
今日は雲一つ浮んでいない。
デート日和
って、まさしく今日の事だよね。
(ね、リョーマ。いいの?)
(いーの。無駄な時間過ごしたね、どこ行く?)
(えっとねー、新しく出来た喫茶店が気になるんだけど)
(ん。じゃ、そこ行こうか)
(うん!)
.