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□Marriage
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ちゅんちゅん、と小鳥のさえずりが聞こえる。
携帯電話からは起床を知らせるアラームが鳴っていた。
ふわっとあくびを漏らし、越前葵は上半身を起こした。
すぐ隣には葵の夫である越前リョーマがすやすやと寝息を立てている。
朝に弱いため、葵のアラームにリョーマは気付かないらしい。
気持ち良さそうに寝息をたてているリョーマに、葵はふわりと笑みを浮かべた。
リョーマを起こさないように気をつけながら、葵はそっとベッドから抜け出す。
寝巻きから私服に着替え、葵は寝室をでた。
「んー、いい天気」
リビングに降りた葵は庭に続くガラス戸のカーテンを開いた。
途端に太陽の光が燦々と降り注ぎ葵の視覚を刺激した。
自然と浮かんだ笑みをそのままに、葵はリビングのソファにかけていたエプロンを身につけた。
「今日は何にしようかなー?」
冷蔵庫を開き、中で冷やされている食材を見ながら葵は呟く。
リョーマのために食事を作ること、それは葵の日課であり楽しみの一つだった。
「よしっ」
メニューが決まったのだろう、葵は鼻歌交じりに冷蔵庫から食材を取り出し始めた。
きぃ、と音がしてリビングの扉が開けられる。
入ってきたのはあくびを漏らしているリョーマだった。
「あ、リョーマおはよう」
「おはよ…」
食材を切っていた葵が肩越しに振り返って挨拶をする。
リョーマは上下スウェットとラフな格好をしているが、それはリョーマにとってパジャマのようなものだった。
朝食を作る葵の後姿を見つめ、リョーマはふっと頬を緩める。
結婚して早数年。
こうして毎日朝早くから自分のために食事を作ってくれる葵に、リョーマはただただ愛おしさが込み上げてきた。
結婚して数年が山場だというが、リョーマと葵は互い以外の誰かを想うことなど万に一つもなかった。
「葵…」
「わっ、ちょ、リョーマ!」
クスリと笑みを浮かべたリョーマは、そっと足音を忍ばせて葵の背後に近づく。
そして葵を後ろから抱き締めた。
「危ないでしょっ」
包丁を片手に持っている葵がリョーマに訴えるが、その表情は満更でもなさそうだ。
それをわかっているのだろう、リョーマは小さく笑みを浮かべて葵の首筋に顔を埋める。
「もー、リョーマ!くすぐったいってば…」
「いいじゃん別に、減るもんじゃないんだし」
「そういう問題じゃないのっ」
さすがにこれ以上は葵に怒られると思ったのか、リョーマは仕方なさそうに体を離す。
解放され、葵は再び朝食を作り始めた。
「ね、リョーマ」
「ん?」
葵から離れたリョーマは食器棚からグラスを取り出し、冷蔵庫から牛乳を出す。
グラスに牛乳を注ぎながら、葵に呼ばれて返事をした。
「今日、何も聞いてないんだけど…仕事はお休みなの?」
「午後に一件、雑誌の取材が入ってるだけ」
「ふーん…」
リョーマの返事に葵は微妙な返事をした。
プロのテニスプレイヤーとして活躍しているリョーマは、当然その手の取材なども受けなければならない。
その取材時間はまちまちであり、短い時はすぐに終わるが長い時は長い。
「今回はどうなの?」
「たぶんすぐ解放してもらえると思うけど…」
ごくりと牛乳を一口飲み、リョーマはニヤリと笑みを浮かべた。
眉根を下げている葵を見て、葵の心中を悟ったのだろう。
「そんなに寂しい?」
「う…だ、だって」
否定しないあたり図星なのだろう。
リョーマはどこか嬉しそうに微笑むと、グラスとテーブルにおいて葵に近づいた。
「大丈夫だって、早く終わってもらえるように交渉するから」
「…うん」
安心させるように葵の頭を撫でるリョーマ。
本当に安心したのだろう、葵はリョーマにへにゃりと笑みを見せた。
Marriage
(葵ー、腹減った)
(あっ、もうすぐできるから待ってね)
(ん…なんか手伝おうか?)
(じゃあ食器とか出してー)
(りょーかい)