□割り込み禁止!
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俺、越前リョーマには可愛い彼女がいる。
中学に入ってすぐに交際を始めたから、俺らが付き合っていることを知らない生徒はいない。
俺は彼女、川瀬葵のことが大好きだ。
好きで好きで狂ってしまいそうなほどに愛しい葵。
手入れの息届いた綺麗な黒髪だとか。
俺を見つめる吸い込まれそうな黒曜石の瞳だとか。
赤い艶々のぷっくりした唇だとか。
陶器のように白いきめ細かい肌だとか。
他の全部のパーツ含めて好きで好きで仕方ない。
俺は葵が好きだし、葵も俺のことが好きだ。
葵の全部が俺のもので。
俺の全部が葵のものだ。

だから──だからだから、俺と葵の邪魔をする人間は許さない。
どこの誰であろうと、絶対に、許さないし、許せないし、許されない。
それは俺にとっても葵にとっても至極当然のことなんだ。

「リョーマ君、あたしずっとリョーマ君のことが好きだったの!だから川瀬さんじゃなくてあたしと付き合って!」

俺には葵がいるのに。
自分の気持ちを俺に押し付けて、俺と葵の邪魔をする人間は嫌いだ。
だから俺はこいつが嫌いだ。

俺の中のナニカがすっと冷え切るのがわかる。
同時に湧き上がるのは目の前にいる、媚びるように俺を見つめてくるこの女に対する嫌悪感と憤り。
許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない──許さない。

「あの、リョーマ君…?」

何も言わない俺に、目の前の女は不思議そうに俺を見つめてきた。
上目遣いをしているが、葵のように可愛らしいとは思えない。
むしろ気持ち悪いこっち見んな。

「イヤだね。俺は葵が好きなんだ」

俺の言葉に女は眉を寄せて俺を見てくる。
きっと心中は葵に対して悪態吐いてるんだろうけど…俺が葵以外に心変わりするとでも思ってるのかもね、バーカ。

「…いいのよ?そんなこと言わなくても…。でもまぁしょうがないよねぇ」

意味分かんないんだけど頭湧いてんの。
何自己完結してるんだよ…。

「ねぇリョーマ君、きっとリョーマ君があたしのこと見てくれるって信じてるから。だから、もっとあたしと仲良くしてねぇ?」

それだけ言って、女は俺の前から去って行った。
待て待て待て、今なんて言った。
俺が葵以外を見る?
俺がこの女を見ることを信じてる?
俺ともっと仲良くしろ?

「……殺したい」

思わずぼそりと漏れたけどうん仕方ない。
ああ早く葵の元へ帰ろう。
葵に癒されたい。

それから…あいつに報復してやらないとね。
だって当然じゃん?
俺と葵の邪魔したんだからそれくらいされるのが当たり前なんだよ。
きっと俺は今笑みを浮かべているだろう。
葵があまり好きじゃないと言った、企んだような笑みを。



******************



「葵」

教室に戻ってから、俺はひたすら葵に構いまくった。
告白してきたあの女は俺たちと同じクラスだから。
俺と葵を見ては顔を歪めて葵を睨みつけているのがよくわかる。

「リョーちゃんどうしたの?」

「んー、何か葵をめちゃくちゃに愛したいだけ」

「えーなにそれ嬉しいっ」

リョーちゃん、それは葵だけが呼ぶ俺のあだ名。
葵だけが呼んでいい俺のあだ名。
あいつを殺したいくらいの嫌悪感は愛しい葵のおかげで癒された。
鬱陶しいくらいに葵を構い倒して甘やかしても、葵は嫌がるどころか嬉しがるだけで。
葵が喜ぶから俺もますます葵を甘やかしたくなる。

「リョーちゃん大好きっ」

「ん、俺も大好き」

ぎゅうと抱きしめてそういえば、葵は嬉しそうにえへへと笑う。
俺らにとってこれはごく当たり前のことで、クラスの連中もそれを理解しているのだろう誰も何も言わない。
むしろ微笑ましそうに俺らを見ては羨ましそうな顔をしていた(あの女以外)。

「葵…」

「なぁに?」

「キスして」

ブフォ、と誰かが噴き出したような音がした。
あの女が唖然としたように呆然としたように俺と葵に視線を送っているのがわかる。
しかし葵はどこか嬉しそうに笑みを浮かべてそっと俺の頬に手を添えた。

「だーい好き!」

一言告げると、葵は躊躇うことなく俺の唇と自分の唇を重ね合わせた。
しん、とした教室に響くリップ音。
その瞬間、誰かが教室から飛び出すのがわかった。
きっとあいつなんだろうな、とか思いながらも俺の中にあるのはざまあみろという気持ちだけ。
俺と葵の邪魔をしたのが悪いんだ。
だから罪悪感なんてものは存在しない。
俺と葵に割り込もうなんて考えたあいつがバカだったんだよ。

「俺はね、愛してる」

「…!私も愛してるーっ」

好きとか大好きとか愛してるとか。
それだけじゃ足りないぐらい想いは強い。
愛してる以上に愛してるんだから仕方ないじゃん?
俺が愛してるのは葵だけなんだから。
…ま、自業自得か。
葵を貪るように唇を奪えば、葵は頬をわずかに染めて嬉しそうに微笑んだ。



割り込み禁止!



(ね、もう一回ちゅーして?)

(しょうがないな…ちゅっ)
(これで満足?)

(えへへー、私もおかえしー!ちゅっ)

(…もう可愛いなこいつ)


((((((((((どっか余所でやれ!))))))))))
 

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