３
□女の子の日
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まるで重たい岩を抱えているみたいな鈍痛が下腹部を襲う。
昨日からヤバイとは思ってたけど…案の定、月一のあいつが襲来してきた。
「…大丈夫？」
心配そうに私のお腹をさすっているのは夫であるリョーマ。
付き合い始めた当初から毎月のことなのでリョーマもすっかり慣れているのだろう。
昔は恥ずかしそうに顔を赤らめていたが、今ではその様子は欠片も見られない。
「ん、へーき…」
平気とは言いながらも実は全然平気じゃない。
お腹は痛いし気持ち悪いし何もする気が起きないし。
でも、プロテニスプレイヤーの夫を持つ妻としてはこの程度で挫けるなんてできないのだ。
生理痛に負けてたまるもんですか！
薬を飲めば多少はマシになる。
けど副作用なのか少なからず眠くなるから、あまり薬には頼りたくない。
ベッドに横になっていた体を起こそうとすれば、リョーマは慌てた様子で私の肩を押して再びベッドに寝転ばせた。
「…何するの」
「いいから、お前はゆっくり休みなって」
「そういうわけにはいかないでしょ、」
ゆっくり休んでもいいと言ってくれるのはすごく有難い。
リョーマの優しさだし、何よりリョーマに愛されてるって改めて自覚できるから。
リョーマは優しげな笑みを浮かべると、再び起き上がろうとする私をベッドに寝転ばせながら頭を撫でてきた。
髪を梳くように指を絡めてくる。
「リョーマ…」
「俺だって自分のことくらい出来るからさ。辛い時くらい寝てればいいんだよ」
確かにリョーマは昔から器用だった。
料理だって出来るし、洗濯も掃除も出来る。
学生時代は何もできなかったのに、同棲を始めてから率先して私の手伝いをしてくれて、その時に覚えたらしい。
「でも、生理痛くらい…」
「だーめ。痛がる葵を見るのは俺も辛いの」
幼子を諭すような言い方に、思わず眉が寄るのがわかる。
リョーマはクツクツと笑って私の頭をくしゃりと撫でる。
「薬持ってきてやるから、それ飲んだら寝ろよ？」
「もう…平気だって言ってるのに」
リョーマは結構頑固だったりする。
一度決めたことを曲げるなんてことはほとんどなくて、きっとベッドを抜け出したところで三度(みたび)リョーマによって戻されるだろう。
それはリョーマにも無駄な体力を使わせることになるので、正直好ましくない。
諦めてこのまま寝た方がいいんだろうな。
ふぅ、と思わず溜息がでる。
絶え間なく鈍痛は続いていて、リョーマにはバレてるのかもわからにけど結構つらい。
「大丈夫？」
「ん、一応…」
小さなお盆に水の入ったコップと薬を乗せ、リョーマが戻ってきた。
上半身を起こした私に、はい、と包装を解いた錠剤を掌に渡してきたリョーマ。
同時に差し出された水を受け取り、先に口の中に水を含んでから錠剤を口に放り込む。
先に錠剤を口に入れると、口腔内の体温と唾液で薬が少し溶けてしまうからだ。
水は冷え切っているわけではなく常温で、リョーマなりの気遣いなのだろう。
いつも使用する水は冷蔵庫で冷えたミネラルウォーターだから。
「さ、寝た寝た」
私の手からコップを抜き取り、リョーマが右手で私の肩を押す。
左手は私の背中に添えられていて、ゆっくりとベッドに寝かせてくれた。
捲れあがっていた掛け布団を胸元まで引き上げると、密着していたリョーマの体が少し離れる。
離れ際にリョーマがキスを落としてきた。
リョーマは帰国子女だからかスキンシップをとるのが好きで、何かあるたびにキスをしてくるのだ。
今のはきっと、おやすみのキス。
「おやすみ、葵」
ほらやっぱり。
最初は日本人にはないスキンシップに戸惑っていたけど、今となってはすっかり慣れたものだ。
カーテンは閉め切られているため部屋に日光は差し込まない。
灯りは部屋の電気だけだが、リョーマはおやすみと言うとすぐに部屋の電気を消してしまった。
分厚いカーテン越しの、ほんのわずかな光。
けれどそれはほとんどないものと同じで、部屋は夜のように暗くなっている。
ベッドが軋み、スプリング音がたったことでリョーマが戻ってきたことがわかる。
寝室のキングサイズのベッドは、私が寝ころびリョーマがベッドの端に座ってもまだまだ余裕だった。
きっとこのまま目を開いていてもリョーマに早く寝るように言われるだけだろう。
そっとリョーマが布団越しにお腹を撫でてくれるのがわかる。
夏場なので薄い布団はすぐにリョーマの体温を直に感じさせる。
それがどことなく気持ち良く感じて、眠気に誘われるがままに目を閉じた。
次目を覚ましたら、きっとリョーマが愛しげに微笑んでおはようと言ってくれるんだろうな。
安易に想像ができる光景に、思わず頬が緩んだのがわかった。
女の子の日
(やっと寝たか…)
((ったく、お前はいっつも無理しすぎなんだよ…))
((……にしても、やっぱ寝顔も可愛いな))
(あ、そだ…)
((今のうちに生理痛に効きそうな食べ物でも調べてみるか))