□繋がる気持ち
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「ねぇ、リョーマ君。今日一緒に帰れる?」

「無理」

帰りの用意をしながら聞けば、リョーマ君は間髪入れずに答える。
ちょっとくらい考えてくれてもいいのに、という思いと同時になんだかリョーマ君らしくて笑みが漏れるのがわかる。

「そっか、部活?」

「そう」

「頑張ってね!」

「ん」

部活が終わるまで待っていたら一緒に帰れるだろう。
けど強豪である青学の男子テニス部は練習時間が長く、それだけで家の門限を軽く過ぎてしまう。
文化部の私と、強豪テニス部エースのリョーマ君。
一応交際はしてるけど、リョーマ君と一緒に下校したことなんて一度もなかった。
恋人関係ではある。
けど私たちは恋人らしいことなんて何もしてない。
一緒に登下校することも、お昼を食べることも、休日に遊ぶことも、携帯で連絡を取り合うこともしない。
否、できない。
だってリョーマ君は毎日の部活で疲れてるから。

テニスバッグを背負って教室を出たリョーマ君。
その数十秒後に用意が終わり、リョーマ君を追いかけるように教室を出た。

「…ぁ」

でなきゃよかった。
リョーマ君の隣を歩いているのは隣のクラスの竜崎さんと小坂田さん。
少し頬を赤らめて笑みを浮かべつつ話をしているらしい竜崎さんは、誰がどう見てもリョーマ君に好意を寄せている。
小坂田さんはリョーマ君のファンクラブを創っちゃうくらいに熱狂的なファンだし。
リョーマ君は私と話してるときよりも自然に相槌を打っていて、なんだかリョーマ君と竜崎さんの方が恋人って感じがする。

───やっぱり、私じゃダメなのかな。

きゅう、と心臓を鷲掴みにされたように苦しくなった。
それと同時に惨めな気持ちになって、リョーマ君たちを見ないように視線を落とす。
そもそもリョーマ君と私なんかが付き合ってるのは私が告白したからで。
そういえばリョーマ君からは一度も好きだなんて聞いたことがなかったな。
そこまで考えてふと気がついた。

ああ、リョーマ君は…きっと私のことをなんとも思っていないんだ。

今更だけど、ようやく気がついた。
きっと顔を真っ赤にして泣きそうに告白した私に同情して付き合ってくれたんだ。
そんな事するくらいなら、あのとき断ってくれた方がよかったのに。

いつの間にか歩幅がだんだん小さくなっていて、どんどんリョーマ君たちと距離が離れていく。
物理的な距離も、精神的な距離も、私はちっともリョーマ君に近づけてなんかいない。
ううん、むしろ時が経つにつれて離れてる気がする。
そういえば、リョーマ君と付き合い始めてからだよね。
前まで仲が良かった子たちが離れていったの。
直接的なイジメがあるわけじゃないけど、この学年の大半の女子はリョーマ君のこと好きだから。
少し耳を澄ませばヒソヒソと聞こえる悪口に近いソレ。
どうしてかな、泣きたいのに泣けない。
苦しいのに吐き出せない。
全部全部私が悪いのかな?
そっか、そうだよね。
そういえば、最近はお父さんとお母さんの仲も悪い。
もう離婚するから、そう二人に言われたのはごく最近のこと。
その原因は、私の進路についてらしい。
お母さんとお父さんはお互いが大好きなはずなのに。
それでも別れなきゃダメになったのは私のせい。
私がいなかったらお母さんたちは別れなくていい。
私がいなかったら学年の女の子たちは誰も傷つかない。
私がいなかったらリョーマ君に迷惑をかけることもない。

「…なんだ、」

簡単じゃん。
私がいなくなれば万事解決、なんで今までそんなこともわからなかったんだろう。
上履きからローファーに履き替えて生徒用玄関を出る。

「リョーマ様ぁ、部活頑張ってくださいねっ!」

ハートマークをまき散らしてそう叫ぶように言っていたのは小坂田さんで。
リョーマ君は片手をあげて応えて、竜崎さんと並んで部活に向かっていた。
私がいなかったら、リョーマ君と竜崎さんはうまくいくんだろうな、なんて他人事のように思った。

「っあー!あんたっ」

ずるりと下がった鞄の肩ひもをかけなおす。
それと同時にきっと目を吊り上げて眉を寄せた小坂田さんが私を指さして駆け寄ってきた。

「リョーマ様の彼女だからって、調子乗らないでよねっ」

びしっ、と人差し指を差してくる小坂田さん。
やっぱり小坂田さんもリョーマ君のこと好きなんだろうな。

「…違うよ」

「はぁ?」

「…………なんでもない」

「何よそれっ!私だってリョーマ様の彼女になりたいのに…っ」

やっぱり私なんかじゃダメだよね。
知ってるし、わかってるよ。
でも安心して。

「もういなくなるから」

「…は?」

訝しげに眉を寄せる小坂田さんに笑みを浮かべ、そのまま横をすり抜けた。
あ、ちょっと!なんて声も聞こえるけど無視する。
早くいなくならなきゃダメだから、ごめんね小坂田さん。

「どうしよう、」

どうすればすぐにいなくなれるかな。
手首を切ればいいのかな。
やり方なんてわからないけど、今日はお母さんもお父さんも帰りが遅い日だから時間はあるはず。
もう通うこともなであろう青学の校舎を最後に見あげて、そのまま帰路についた。




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