□恋のシグナル
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※夢主→桜乃ちゃんの1つ下の妹設定。
桜乃ちゃんはリョーマ君にnot恋愛感情な憧れを抱いているだけ、(一応)シスコン設定。

上記のことが苦手な方はご閲覧の中断をお勧めします。


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初めて彼女に会ったのは、俺が2年生にあがってすぐのことだった。
正確には、1年生の入学式の日。
俺達新2年生と新3年生は午前中に始業式を終えており、午後からは部活動の時間になっていた。
午後の部活まであと20分前後余裕があった、昼食時間のことだと思う。
俺は早々に母さんの作った弁当を食べ終わり、1年生の時から気に入っていた桜の木の下で昼寝をしようとしていたのだ。
気温や風、前日降った雨のせいで桜の花びらは随分散っていた。
その日は風もあったこともあり、残りの桜が吹雪のように舞っていたのをよく思う。

『うぅ、ここ、どこだろ…?』

そこで聞こえたのは、どこかで聞いたことがあるような、しかし確かに初めて聞く女子生徒の声だった。
帽子を顔に乗せて視界を遮り寝る体勢をとっていたが、どうやら迷っているらしい声を無視することもできず渋々身体を起こして。

『何やってんの?』

そう声をかけてから、初めて姿を見た。
ポニーテールに結った長い髪が風に揺れ、その髪色と桜の花びらがよく似合っていた。

『あ、あの…っ!今日からここの生徒になるんですけど、体育館ってどこですか!?』

どうやら迷っていたらしい彼女は、焦ったように制服のスカートを握りしめて若干涙目になりながら問うてきた。
どこかで見たことがあるような容姿の彼女は方向音痴のようだ。
体育館への道のりを説明すれば、何度も頭を下げて礼を言って、入学式が近づいていたからか慌てて走り去っていった。

それが、俺──越前リョーマと、後輩であり後に俺の想い人となる竜崎悠香との出会いだった。



*****************



「…あれ、悠香?」

「あっ、リョーマ先輩」

現在進行形で俺の片思いの相手である竜崎悠香は、顧問であるオバさんの孫で、同級生である竜崎の妹らしい。
判断がつきづらいからと名前で呼ぶようになったのだが、今思えばその時点で俺は既に悠香に惹かれていたんだと思う。
何にしても異性に対してここまで興味がわいたのは初めてのことで、それが恋心であると自覚するのに長い時間がかかっていた。
今でこそ自覚しているが、このやっかいな感情に上手く付き合っていく自信はあまりない。

「素振り?」

「はいっ!」

悠香は竜崎の影響でテニスを始めたらしい。
もともと運動神経は極端に悪くなかったからか、始めて数ヶ月といえどなかなか筋はいいと思う。

「ふーん。ねぇ、やって見せてよ」

「えぇ!?む、無理です無理無理!リョーマ先輩にお見せできるものじゃなくって…!」

顔を真っ赤に染めあげてぶんぶんと首を横に振る悠香。
初めて会った時よりも髪の毛は伸びていて、首の動きに合わせて髪が宙に舞った。

「俺が何回も教えてやったのに?」

悠香がテニスを始めてすぐ、俺は去年のようにオバさんに頼まれてテニスを教えることになった。
去年と違ったのは、直接俺がオバさんに頼まれたことと、教える相手は悠香1人だけだったことと、それからも(無償で)何度も教えてること。
それから銀華中(だっけ?)の邪魔もなかったことくらい。
あと、竜崎よりも悠香の方が飲み込み早かった。

「そ、それもそうなんですけど…。あ、この前先輩に褒められたんです!あとお姉ちゃんにも」

それから最近知ったことだが、竜崎はシスコンらしい。
竜崎は悠香を溺愛しているらしく、血の繋がりはないはずだが小坂田も悠香を妹のように思っている節があるらしい。
だから一度だけ、悠香を泣かせたら許さないからとみたこともないような形相で言われたことがあり、それはしっかりと記憶に刻まれている。
…ま、泣かす気なんてないけどね。

「なら、自信持ちなよ。テニスは精神面が重要なんだから」

「は、はいっ」

そこでようやく決意を決めたのか、ほんのりと頬を染めながらも止めていた素振りを再開した。
まぁ、ホントは木の陰から見てたんだけどね。
念のために言うけど、わざわざ悠香の姿を探してたわけじゃなくてたまたま俺の行く先に悠香がいただけだ。
断じて竜崎が疑っていたストーカーではない。
悠香がラケットを振ることで、空気を切り裂く鋭い音がする。
ヒジも肩もいい具合だし、前は出来てなかったから成長はしてる。
でも。

「ヒザ伸びすぎ」

まだまだ腰の位置が高い。
ヒザの沈み具合ってのは結構重要だから、言いながらラケットで悠香のヒザを軽く押した。

「うっ…この前も言われた気がします」

素振りを止めた悠香が、少し肩を落としながら呟いた。
確かに前もヒザが伸びていたし、上半身に集中するから下半身にまで意識が行き届かないんだと思う。

「ま、初心者は慣れるまで大変だしね。しょーがないんじゃない」

初心者にとって、テニスは難しい。
俺は記憶にもないくらいガキの時からやってたからその記憶は曖昧だけど、他のスポーツの中でもなかなかに難しい方だと思う。
体力、動体視力、精神力。
肉体と精神のすべてを持って制するのがテニスというスポーツ、みたいなことが何かの雑誌に載ってた気がする。

「はい…」

「でもそれ以外はいいと思うよ。ヒザだけ気をつけて、もう一回やってみな」

俺の言葉に、コクリと頷いて悠香がもう一度素振りを再開した。
ヒザもちゃんと沈んでいて、素振りのフォームに問題はない。

「そう、その感じを忘れないようにね。あとはやってるうちに体が覚えるよ」

「はいっ!いつもいつもありがとうございます、リョーマ先輩っ」

俺のことを"リョーマ先輩"と呼ぶのは、今のところ悠香だけだ。
入学する前から竜崎に話を聞いていたらしく、今更越前先輩と呼び変えると違和感があるのだとか。
まぁ別に名前で呼ばれて悪い気はしないから変えなくていいんだけど。

「私も、早くお姉ちゃんとかリョーマ先輩みたいに上手くなりたいなぁ…」

ラケットを抱きしめるように持ちながら、悠香が呟く。
そういえば竜崎は何かのジュニア大会で3位になったとか悠香が嬉しそうに言っていた気がする。

「なれるよ、悠香なら」

最初は悠香以上にまともに素振りもできなかった竜崎が3位になれたんだ、悠香ならそれ以上になるに決まってる。

俺の言葉に、悠香は見惚れるような表情でふわりと微笑んだ。
…なーんて、もうとっくに惚れてるけどね。



恋のシグナル



(悠香ーっ!)

(あ、お姉ちゃん!)

(ゲ、竜崎…)

(リョーマ君もいたんだ?)
((ちょっとリョーマ君悠香に近づきすぎじゃないかなぁ?))

(いちゃ悪いわけ?)
((別にこれくらいいいでしょ、なんならもっと近づくけど))

(ううん、そんなことないよ!)
((それ以上近づくなんて絶対許さないからねっ))

(あのね、リョーマ先輩がフォーム教えてくれたのっ)

((((ああ、やっぱり可愛い))))
 

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