□恋が叶うまで
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今日は久し振りの休日である。
彼氏と遊びに行かないかと誘ったのだが、今日は用事があるからと断られてしまった。
だから私は諦めて家でゆっくりするつもりだった。
しかしどうしても今日明日内に購入しなければならないものが出来てしまったのだ。
外ではざぁざぁとうるさいほどに雨が降っていた。
傘を差して買い物を終えたところで、私は見てしまった。

「───え?」

傘を1本差して、仲睦まじそうに私の前を通って行った一組のカップル。
要するに見ているだけで微笑ましくなるような相合傘だが、その男の方が問題だった。
その男は、付き合って数ヶ月目になる、私の彼氏だったからだ。
つまり彼の用事とは、私以外の女と遊ぶことだったらしい。

すぅ、と心の中が冷えるのがわかった。
最近は確かにそんな雰囲気がでていた。
つまり、私以外の女の影。
もともと浮気性だったらしく、友人たちにも何度も何度もやめた方がいいと言われていた。
でも、どうしても、私は彼のことを好きになってしまったのだ。
けれど、もうハッキリした。
私は随分前から彼への気持ちが離れていたことを。

「…………サイテー」

ボソリと呟いた私の言葉は、雨の音にかき消された。
ポケットに入れていた携帯電話を取り出し、ある人物のアドレスを呼び出した。
それは前々から彼のせいで私が傷つかないかと心配してくれていた人。

『もしもし、悠香?』

「リョーマ…」

電話に出てくれた人、中学時代から付き合いがある越前リョーマという男性だ。
電話越しに雨の音が聞こえているのだろう、すぐに"どうしたの?"とどこか心配さを孕んだ声をかけてきた。

「どうしよう…私」

気持は離れていた。
けれど裏切られたという気持ちはあるのか、リョーマの声を出した瞬間に堰を切ったように涙を零してしまった。

『…今、どこにいるの?』

リョーマに問われ、今いる場所を答えた。
するとリョーマが、その近くにある公園で待つように言われた。
電話を切って、重い足を動かしてその公園に向かう。
公園の屋根があるベンチに腰を下ろし、リョーマを待つ。

「悠香っ」

「リョーマ…」

傘は差しているが、ほとんど意味を持たないのかリョーマの頭も体も濡れていた。
パシャパシャと水溜りを踏みながら駆け寄ってきたリョーマ。
慌てて鞄に入れていたタオルを取り出し、リョーマの頭にかけた。

「何で濡れてるの…?」

「悠香に、何かあったと思って…」

ほんの少し息を切らしているリョーマ。
きっと慌てて走ってきたのだろう。
普段からテニスで鍛えているリョーマが息を切らすなんて滅多にないから。
1,2分程度で息を整えたリョーマは、私の渡したタオルを使って滴り落ちる水分を拭った。

「何があったの…?」

ベンチに腰を掛け、リョーマが問うてきた。
そこで聞かれた私が何があったか説明すると、リョーマはキッと眉を吊り上げて彼への悪態をついた。
はぁ、とリョーマが息を吐き出す。

「…だから言ったじゃん。早く別れた方がいいって」

「だって……」

リョーマはまるで私を安心させるようにポンポンと頭を撫でてくれた。
その手が暖かくて、嬉しくて、私は止まっていた涙を再び零した。

「俺なら、お前を泣かせたりなんかしないよ?」

「リョーマ…」

リョーマは、ずっと前から私に忠告してくれていた。
あんな浮気男とは早く別れた方がいいって。
それよりももっと他の男の方がいいよって。
…俺と一緒になって欲しいって、ずっと前から。

「私、バカだったのかなぁ…?」

「そうだね、バカだよ。さっさと別れれば、悠香が傷つくこともなかったのに」

私の言葉を、リョーマはふっと笑みを浮かべて肯定した。
リョーマはいつもそうだ、彼とは違って私の意見を肯定するし、否定もする。
あの人は私にずっと興味がなかったんだろうな、と今更ながらに思う。

「…もう、別れる」

「それがいいよ」

リョーマは優しげな笑みを浮かべて優しく頭を撫でてくれる。
もう、彼に対する執着心なんてとっくの昔になくなっていた。
さっさと別れよう。
そう決めた私は、携帯電話を取り出してアドレスを呼び出した。
新規メールで、もう別れようと書いた。
女の人と一緒にいるのを見たから、もう限界だからと。
そして躊躇うことなく送信ボタンを押した。
きっと今はデート中だから携帯電話を切ってるんだろうな、なんて想像して。

「じゃあ俺と付き合う?」

冗談っぽく笑うリョーマに、思わず苦笑が漏れた。
リョーマは分かるはずだ。
さすがに、別れた瞬間に誰かと付き合うなんて出来ないことは。

「冗談だよ。さすがに、別れた瞬間に悠香が誰かと付き合うなんて考えられないから」

「…ありがと」

リョーマは優しい。
顔もいいし、優しいし、テニスは上手くて運動神経抜群で、頭もいい。
そんなリョーマは当然ながらモテモテで、だからリョーマが私に好意を寄せてくれているのは正直信じられない。
でも嬉しくて、私の気持ちは既にリョーマに傾き始めていることは理解している。

「ごめんね、リョーマ…」

「気にしなくていいよ。でも、悠香が俺を見てくれるまで待ってるから」

微笑を浮かべたまま、リョーマはまた私の頭を撫でてくれた。
きっと私は、すぐにリョーマへ気持が転がるだろう。
否、きっと私はもうリョーマに心惹かれている。

「…リョーマは、待っててくれる?」

私の問いに、リョーマはふっと笑みを浮かべて「当然でしょ?」と返事をしてくれた。



恋が叶うまで



(いつになったら俺を好きになってくれる?)

(さぁ、その時にならないとわかんないよ)

(早く俺を見てよ)

(そんなこと言われても…)
((もう少し、なんだけどなぁ…))
 

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