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□ラブノベルス
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前作→ファストストーリー
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リョーマがこの家に来てから1週間が経過した。
平日は私は学校があり、学校が終わったと思えばそのままバイトに行かなければならない。
リョーマがこの家に来てから、気になった私たちはアオハルダイという地区を、ノートパソコンで検索してみた。
この部屋にはテレビはないが、その代わりにインターネットの繋がったノートパソコンがある。
ネットで検索ワードに打ち込み、エンターキーを押した。
しかし、検索結果はゼロ。
それは本来ありえないことだ。
今の時代、インターネットで調べられないことはこの世に存在せず、架空のものですらないことくらいだろう。
もしかしたらどこか小さな地区で日本のどこかにひっそりあるのかもしれないと抱いていた期待は打ち砕かれ、リョーマは画面を見ながら呆然としていた。
それはつまり、リョーマが住んでいたという青春台がこの世に存在しないことをあらわしているのだから。
それから数時間は悩んでいたようだが、翌日にはフッ切れたように柔らかい表情を浮かべていたのは記憶に新しい。
どうやらリョーマは、負けず嫌いではあるが現実や結果を素直に受け入れる寛大な性格の持ち主らしい。
「リョーマ、ほら起きて!」
今日は久し振りに掛け持ちしているバイトすべてが休みの日。
それは月に1回しかない貴重な日で、いつも通り6時過ぎに起床した私は、朝食を作り終えてからいまだに布団で眠っているリョーマを起こしにかかる。
「朝ごはん冷めちゃうよ」
ちなみに六畳一間のこの部屋に、布団は一つしかない。
布団は意外と値が張るのでそう簡単に購入もできず、私とリョーマはこの一週間同じ布団で就寝していた。
二人とも寝相が悪くなかったことが幸いして、朝起きた時にどちらかが布団から追い出されている、という現象はいまだに起きていない。
「んー…」
小さく唸り声をあげて、リョーマはゆっくりと瞼を開いた。
この1週間で、私はすっかり変わってしまった。
一人暮らしで慣れていたはずの寂しさに怯え、リョーマに温かみを求めてしまうのだ。
しかしリョーマはそれを拒絶することなく、すべて受け入れてくれる。
突然だが、私は天国というものは信じていない。
当然ながら神様も信じていない無神論者で、けれど平行世界、所謂パラレルワールドを信じるという少し特殊な人間である。
リョーマの住んでいたという青春台の検索結果がゼロであったとき、私の頭をよぎったのはパラレルワールドの存在だった。
きっとリョーマは、今いるこの世界とは別世界の人間だ。
だってリョーマほどの、まるで二次元のキャラのような人間離れした容姿を持っている高校生がこの世にいるはずがない。
整形をしたならば別だろうが、高一であるリョーマが整形などするはずがないし、話を聞いている限り、今いる場所とリョーマのいた場所は酷似しているようで少し違う。
だから、リョーマはきっとこの世界に独りぼっちだ。
リョーマは本能的にそれを感じ取っているのだろう。
だから、恋人でもないのに、私がリョーマを抱き締めれば、リョーマは嬉しそうにそれを受け入れてくれる。
「悠香…あったかい」
「リョーマもあったかい…」
上半身を起こしたリョーマに抱きつけば、リョーマはそんな私を受け入れてポンポンと背中を軽く叩いてくれる。
そして私の首筋に顔を埋め、まるで擦り寄るように頭を揺らした。
数分間の長いようで短い抱擁を終え、身体を離したリョーマはすっかり目が覚めているようだ。
ふっと口元をゆるめながら、今日の朝食を聞いてきた。
「今日は、リョーマの好きな和食だよ」
「マジ?やった」
リョーマは洋食よりも和食の方が好きらしい。
だから最近は毎日張り切って和食をメーンにしているのだ。
リョーマは嬉しそうに笑みを浮かべて、先ほどまで身体を包み込んでいた布団を片付け始めた。
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夕方になり、私とリョーマは少し冷え込んだ身体を温めるために布団を足にかけて寄り添うように座っていた。
折りたたみ式の小さなちゃぶ台には、湯気があがる緑茶が入っている。
「…?」
ふと、違和感に気がついて顔をあげた。
なんだか視界の隅に映るリョーマがいつもと違って見えたのだ。
リョーマの顔を見れば、リョーマは私の視線に気付いたのか何?と首を傾げて問うてきた。
「あ…えっと」
「ああ、俺の顔に見惚れてたの?」
「ち、違うわよっ」
クスクスとからかうような笑みを浮かべて、リョーマが言う。
慌てて否定して視線を外せば、リョーマは相変わらずクスクスと笑っていた。
指で口元を軽く押さえる、上品な笑い方。
きっと自然とリョーマに身についていたであろうそれは、窓から差し込む夕日に照らされてほんのり赤く染まり、随分と絵になって見えた。もう、と文句の言葉を漏らして再びリョーマに視線を向ける。
その瞬間、私の目が見開かれた。
「……!?」
「……!?」
リョーマも違和感に気がついたのだろう、自分の体を見下ろして目を見開いていた。
──リョーマの体が、光を帯びていた。
光が反射しているのではない、けれどリョーマ自身が何かの生物のように発光しているわけでもなくて。
強いて言うなら、そう、リョーマそのものが暖かい光で包まれているような、そんな光景。
「………悠香、俺、いかなくちゃ」
その瞬間、どこか悲しそうに眉を寄せたリョーマがぽつりと呟いた。
「…え?」
「わかるんだ。俺はもう、ここにはいられない」
「ど、どういうこと…?」
リョーマは眉を寄せてゆらゆらと揺れる琥珀色の瞳を私に向けてきた。
そして、少し震える手を私に向かって伸ばしてくる。
リョーマの左手は、そっと壊れ物を扱うかのように私の頬を優しく撫でた。
「…もといた世界に、帰らなきゃ」
「……ッ!」
悲しげに眉を寄せたまま、リョーマは悲しげに微笑んだ。
私の頬をつー、と撫で、人差指を唇にあてがう。
「や、やだ…リョーマがいなくなるなんて、いやだよ」
視界が滲んでいた。
きっと私は涙を零しているのだろうとわかってはいるが、次から次へとあふれる涙を拭うことはできなかった。
リョーマを包み込む光が、少しだけ弱まった、気がした。
「俺だって、悠香と離れたくなんかない…っ!」
悲痛そうに顔を歪めて、リョーマは叫ぶように言う。
今まで我慢していた言葉をぶつけるように、私に向かって。
「好きだよ、悠香。好きなんだ…!」
「りょー、ま」
好きだと、言ってくれた。
私の目を見て、はっきりと。
それがあまりにも嬉しくて、私はまたぼろぼろと涙を零した。
だって、私だって、ずっとリョーマが好きだったんだ。
きっと初めて会った、あの日から。
「私も好き、大好き…っ!だから、イヤッ」
「悠香……」
私の名前を呟いて、リョーマが私を抱きしめてきた。
そのせいで、リョーマを包み込む光が私まで包み込むようなそんな錯覚すら感じてしまう。
「 」
だんだんだんだん、リョーマの体が半透明になってきた。
そして小さく小さく呟かれた5文字を聞いた瞬間、リョーマの唇と私の唇が重なった。
「……?」
あれから数分が経過した。
唇に当たる温かさは消えなくて、私はそっと目を開いた。
「りょー、ま」
目の前には、同じく目を見開いたリョーマがいた。
リョーマを包み込んでいた幻想的なあの光は消えていて、唖然としながら周りを見渡す。
「…ここ、どこ?」
それは、先ほどまでいた私の部屋ではなかった。
白と黒のモノトーンでまとめられたシンプルな家具。
背中にあったはずの壁は白いソファに代わっており、思わず言葉を漏らしてしまった。
はっと我に返ったらしいリョーマもあたりを見渡し、口を開く。
「……ここ、俺の部屋だ」
リョーマも高校に入ってマンションで一人暮らしを始めたと言っていた。
きっとそのマンションのことなのだろう、リョーマはきょろきょろと忙しなく首を動かして呟いた。
「…じゃあ、今度は、私はリョーマの世界に来ちゃったの?」
「みたい、だね」
呆然と呟いた後、リョーマは何かを思い出したのか「あ」と言葉を漏らした。
何?と問えば、リョーマは呆けたような表情をしながら告げる。
「あの光、どこかで見覚えがあると思ったら…俺が意識失う前に、俺の周りにあったんだ」
そう言った後、リョーマは説明を付け加える。
あの光に包みこまれた瞬間に意識がフェイドアウトし、そして目を覚ましたその瞬間に光が分散して消えたと。
どうやらあの光は、平行世界へ行き来するために必要不可欠なものらしい。
リョーマをこの世界に戻そうとして、間違えて私まで連れてきてしまったのだろう。
もしかするとあの光に包まれたものだけが平行世界を移動できるのかもしれない。
「…でも、これで、また一緒にいられるね」
「そうだね…。せっかくリョーマの愛の言葉も聞けたことだし?」
「……忘れて」
リョーマは頬を赤く染め、恥ずかしそうに顔を伏せた。
キスの前に告げられた5文字──アイシテル。
そんなの、私だって同じ気持ちだ。
だからそれを示すために、リョーマの首にかじりついてキスを落とした。
それから、まるで小説みたいな奇跡だね、そう言って笑い合った。
ラブノベルス
(…え、てか時間が戻ってる!?)
(うそっ!?)
(……ああ、1週間前になってる!?)
(って、これ俺が悠香のところに行った日なんだけど)
(えええええ!?)