□確信したこと
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前作→アフターガール



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ムカつく。
ただひたすらにムカつく。
何がムカつくって、俺が園田の髪切ってコンタクトにさせた次の日から急に言動が変わったクラスメイトや同級生たち全員だ。
今まで園田の容姿とかを馬鹿にしてたあいつらは、急に態度が変わって園田に積極的に話しかけるようになった。
もちろん園田の根本的な性格とかは変わらないから戸惑ってるだけだけど…なんかそれもおしとやかでいいとかほざいてる。
見た目が変わるだけでこんなにも態度変わるなんてふざけんなって感じだよね。
…まぁ、園田は友達が増えたって喜んでるみたいだけど。

俺が園田の髪をカットしたその日、俺達は初めて携帯電話のアドレスを交換した。
あれからまだ1週間くらいしか経ってないけど、今のところ毎日メールはしてる。
あと時々電話も。
だから他のヤツよりも仲は良いと思うし、この1週間で改めて確信したことが一つある。

──俺は、園田のことが好きだってこと。

もしかしたら好きなのかもしれないっていうのは結構前から感じてたけど、男子の園田に告白しようかなとかいう言葉を聞いてイラついたり園田からのメールだけでいちいち喜ぶあたりで確信した。
まずカットしてやるってこと自体が特別ってことなんだけどね。

「どうしよう、越前君…」

「今度は何?」

アドレスを交換したあたりから、俺と園田はよく話をするようになった。
時々俺らの会話の邪魔しようとしてくるやつらがいるから睨んで追い払ってるけど。
そのおかげか知らないけど、園田は俺に対してだけは敬語を外すことが増えた。
ふとした瞬間とかは敬語だけど、それが完全になくなるのはもうすぐなんじゃないかと思ってる。

「こんなのもらっちゃったんだけど…」

どこか困ったように眉を寄せて園田が手渡してきたのは、封の開けられていない封筒。
中には手紙が入っているのだろう、差出人には男の名前が書かれていた。

「…何これ」

「下駄箱に入ってて…どうしようかなって、」

「とりあえず、中見てもいい?」

ホントは今すぐにでもビリビリに破り捨ててやりたい。
でも園田の前で不躾なことはしたくないし、許可を得てまだ園田も見ていないであろう手紙に目を通すことができた。
差出人も、まさか真っ先に読むのが園田じゃなくて俺だと想像もしなかっただろう。
まぁ、中身は、予想通りのラブレターだった。
けど。
俺がこんなの許すわけないじゃん?

「あ、これ間違い」

「そうなんですか?…じゃあ、返した方がいいのかな」

嘘だけどね。
差出人は隣のクラスの男子。
宛先はどう見ても園田。
だけど、手紙でしか告白できないようなやつに園田を渡すわけないじゃん?
って言ってもたとえ園田に直接告白したとしても渡す気ないけどね(まだ俺のじゃないけど)。

「別に、捨ててもいいんじゃない?間違えたのは向こうなんだし、どうせすぐ気付くでしょ」

手紙には、もし返事がOKなら自分の下駄箱にこの手紙に返事を書いて戻してくれって書いてあるし。
返事もなくて手紙も返ってこないってことは断られたんだってことぐらい理解するでしょ。

「じゃあ…捨てようかな。誰宛かもわからないものを持ってるわけにもいかないし」

「俺が捨てとこうか?」

「ううん、後ろのゴミ箱に捨ててくるだけだから…私が行くよ」

「ん、わかった」

開いていた手紙を再び畳んで封筒にしまった。
園田は俺から封筒を受け取ると、躊躇うことなくゴミ箱の前に立ってビリビリと細かく破って捨てた。
それはきっと間違えたと勘違いしている差出人の手紙を他人に読まれないようにという園田の配慮なんだろうけど、差出人がこれを見てたらたぶんショック受けるだろうね。
ざまぁみろって感じだけどさ。

「越前君、いつも相談に乗ってくれてありがとね」

「別に。この程度ならいつでも言ってくれていいよ」

「うんっ」

ニコリと効果音がつきそうなほどに浮かべられた笑顔。
それは誰がどう見ても見惚れるような笑みで、顔に熱が集まったような気がして誤魔化すように前を向いた。



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昼休みになり、早々に昼食を食べ終えた俺は屋上で昼寝をしようと給水塔の上で寝転んでいた。
秋になり肌寒さを覚える今の時期は屋上の日当たり加減がちょうどいいのだ。
ふわっとあくびを漏らし、うつらうつらと舟を漕ぎ始めた時。
ぎぃ、と重たい屋上の扉が開く音がして意識が覚醒した。
人が複数入ってきたらしい。
どうでもいいし今度こそ寝よう──としていた俺は、声的に男子が発した言葉によって完全に目が覚めた。

「園田さん!」

この学校に園田という苗字を持っているのは一人しかいない。
そう、俺の隣の席の想い人である園田悠香ただ一人なのだ。
全校生徒の名簿が登録されている図書委員のみが見れるサイトで検索もかけられるのだが、実際に調べてみたら一人だけだったから確実だ(断じてストーカーではない)。

「ずっと前から好きだったんです!付き合ってくださいっ」

どうやら男子生徒は告白をしているらしい。
嘘つけふざけんなどうせお前園田が変わってから好きになったんだろ。

「ええと、すみません。私、あなたのこともよくわからないし…」

「付き合ってから知っていけばいいじゃないですかっ」

「すみません、そういうのは…」

「でもっ」

何度も断ってるのにこの男もしつこいな。
困ったような表情を浮かべる園田のことが安易に想像できて、思わず溜息が漏れた。
ホント、俺がいないと何にも出来ないんだから…なーんて。

好きな女が告白されて黙ってる男なんていないよね。

「アンタもいい加減しつこいね」

給水塔はそれほど高さがあるわけじゃない。
むしろ高さなんてほとんどなくて、この程度なら飛び降りたところで足を痛めることもなかった。
だから俺は言葉を発しながら給水塔から飛び降り、そのまま園田の隣に立った。

「な、おま──っ」

「越前君!」

何か文句を言いたげに男子生徒が口を開いた。
しかしその前にぱぁっと笑顔を浮かべた園田が俺の苗字を呼んで。
それだけで優越感に浸るとかもう重症すぎてヤバイ。

「悪いけど、」

男子生徒を見ながら、俺の後ろに隠れるように立った園田の肩を抱き寄せた。
驚いたような表情は浮かべてるけど嫌がられてないし脈アリかもとか内心テンションあがってたりするんだけどね。

「こいつ、俺のだから。手ぇ出そうとすんの止めてくんない?」

「え、えええ越前君っ!?」

「照れなくてもいいじゃん、」

ほんのりと頬を染める園田が可愛くて、でもそれを顔に出さないようにポーカーフェイス保ちながら耳元に口を寄せた。
俺に合わせて、小声でそう囁けば、園田はますます頬を真っ赤に染めあげて。
小さく、俺にだけ聞こえる声で了承の言葉を漏らした。

「ってことだから、諦めてくれる?あと他のやつにも伝えといてよ。…悠香の見た目が変わったからコクるとかふざけんなってさ」

いつも苗字で呼んでいるから、名前で呼ぶのは新鮮だった。
それでいて恥ずかしい。
何か言いたげに俺と園田を数回見比べた男子生徒は、大きく溜息を吐いてその場から去っていった。
どうせ前から好きってのは嘘で、美人と付き合ってるってステータスが欲しかっただけなんだろうし。
諦めるのは早いだろうと踏んでたけど、予想以上に早かった。

「…ごめん、急に」

男子が屋上からいなくなってから園田の肩に回していた手を慌てて離した。
俺としてはもう少し触れていたかったけど、園田は絶対恥ずかしがるから。

「う、ううん。助かったから…」

顔が真っ赤な園田は、コンタクトレンズを瞳に入れているからか眼鏡の時よりも大きくぱっちり開いているような気がして。
それでいて、うるうると潤っていた。

顔が真っ赤で目が潤んでて身長俺より低いから上目遣いとか…ヤバイ園田が可愛すぎる。
園田の顔は真っ赤だけど、今の俺もきっと負けず劣らず真っ赤な顔をしているだろう。
好きなやつの可愛い姿みたら…顔に熱があるまるのは至極当然のことだと思う。



確信したこと




俺と園田が付き合ってるって噂はあっという間に広まった。
そして、噂通りに恋人という関係になるまで、あと───…。
 

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